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 北緯24度17分、東経153度59分。  日本の排他的水域、太平洋に浮かぶ南鳥島では、海上自衛隊基地と海洋開発基地が東西に二分されていた。  東側の地区には自律型無線潜水機基地(A  U V)や黄色く塗装された海底鉱床掘削用の深海作業潜が何隻も係留され、西側の地区では潜水艦、護衛艦の水雷戦隊が有事に備えている。  その南鳥島から南へ五キロの沖合に、全長250メートル、幅40メートルのレアアース・プラットホームシップが停泊していた。  紺碧の海は穏やかで太陽光は燦燦と降り注いでいる。  技術主任の徳永光彦は、プラットホームの中でパソコン画面に送られてくるエアリフトの動作数値を目で追っていた。  外の直射日光にさらされるよりはマシだが、かといって狭苦しい部屋にこもっていてもねばつくような汗が噴き出してくるだけだった。  結露してふにゃふにゃ寸前の紙コップのコーラを口に運ぶ。炭酸が抜けてフツーの砂糖水になった液体を飲みほしながら、左手で額の汗をぬぐった。  エアリフトは、海底6000メートル地点に煙突のように差し込んだパイプに圧縮空気を送り込んで鉱脈泥水に空気を混ぜ、浮力を利用して引き上げる仕組みになっている。レアアースを含んだ泥水は、希塩酸を用いてイットリウムやセリウムを抽出する。  順調な滑りだしだ。  天気図も高気圧に覆われている。  問題ない。  徳永光彦は数値を見て満足そうにうなずいた。  だしぬけに緊急警報が鳴り響いた。 「右舷二時の方角に遭難者三名を発見! 右舷二時の方角に遭難者発見! 作業中止、ただちに救難活動を開始せよ!」  徳永は傍らの双眼鏡を手にすると、観測室を飛び出した。 「一か月前に行方不明になった技術者たちと思われる!」  逐次、スピーカーから情報が流れだす。  徳永が甲板に出ると、すでに救命ボートが下ろされるところだった。救命胴衣姿の係官たちが乗り込んでいる。  
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