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 双眼鏡を使わなくても、海面を漂う要救助者を目視できた。筏のような浮遊物に乗った男女が両手を振り回している。波は静かだが、ときおり潮のうねりが高くなるときがあって、波をかぶった筏が視界から消えることがあった。  採掘運搬船に搭載された救命ボートのターボエンジンが唸りだして、滑るように海面をスタートした。海面は瞬く間に真っ白に泡立ち、大蛇のような航跡を描いて突進していく。救命ボートの後尾につき出た駆動翼が大きく揺れていた。  救助班は現場に到着した。  徳永は双眼鏡を目に当てた。潜水服姿の救助要員が手を伸ばして、遭難者をボートに引き入れている。 「本当にあの時の行方不明者なのだろうか」徳永はつぶやいた。「ありえない・・・」  一か月前、技術者八名を乗せた深海潜水船が消息不明になった。深度4500メートルを航行中に通信が途絶えたのである。捜索するも、手掛かりは全くつかめず、乗員の生存が絶望視された案件であった。  会社側はレアメタル鉱床の採掘を優先するように命じてきた。行方不明者の命の重さよりも、100年分のセリウム、イットリウム、メタンハイドレートを優先させたのだ。  救命ボートが戻ってきた。  当直以外の乗組員たちが歓声を上げながら一斉に甲板に集まった。ホイストがボートを吊り上げる。  遭難者たちは徳永が予想していたより元気だった。  その時、徳永は不意に全身が震えるほどの苛立ちを覚えた。生存を喜ぶべきなのに、なぜかその真逆の感情が湧いたのである。        
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