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彼の顔は蒼白になり、南方の暑い空気に晒されているにもかかわらず、額から冷たい汗が噴き出していた。徳永は痛みのように押し寄せる怒りをなだめた。船の手すりを両手でしっかりとつかみ、足を踏ん張った。そうしなければ、自分が何をしでかすか分からなかったのだ。
「どうしたんですか、技術主任。顔色、凄い悪いですよ」
半袖に半ズボン姿の操舵士が徳永の横に並んで話しかけてきた。
「大丈夫だ」徳永は、操舵係のひょろ長い——どこか馬を思わせるような——容貌を見ながら答えた。「突発的に発狂しそうになったけど、もう大丈夫だ」潮が引くように怒りが鎮まっていった。
「なら、いいですがね・・・」操舵士の田辺和夫は双眼鏡をを額に押しけて明るい海を見た。「K2-18に襲われる兆候として、心理的攻撃の報告が挙げられているんですよ。このあたりのどこかに潜んでるかもしれません」
「おいおい、物騒なこと言わんでくれよ。連中は我がマリンプラネット社の大事なお得意様だぞ。商売相手にそんなことするものか」
「いえ、連中は海底鉱脈の精錬技術を提供する見返りに、会社の人間を人身御供にしてるんです。そのことは、あなたもご存じでしょ」
「そりゃ・・・」
徳永は奇妙な高知能種族を思い出して身震いした。
彼等の故郷は、地球から124光年離れた赤色矮星K2-18の太陽系外惑星だと云われる。
地球の生命体が蛋白質組成であるのに対して、彼等は過塩素酸塩基系の生命体であり、人間とはおよそかけ離れた形状をしていた。土砂をミルフィーユ状に積み上げたような体躯をしており、六本の金属状の触手がドラム缶のような胴体から生えている。視覚、聴覚などをつかさどるような器官は存在せず、そのかわりに昆虫を思わせるような触角器官が扁平な胴体の上部からにょっきりと二本伸びている。
意思疎通も人間のように言語を交えた方法ではなく、可視光線、紫外線、赤外線などの電磁波を自ら発信することによって情報交換する。
電磁派を人間の言語に置換するには困難と思われた。
しかし、彼等は我が社と交渉用の代理人を造って、意志疎通を図ってきたのだ。それにより、彼等がなぜ地球のマントル層に居住しているのかが、明らかになった。
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