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油圧式の水密扉が閉まった。
クルーたちはそれぞれの持ち場に着いた。
クラリッサ・ルイーズが電測のタッチパネルを滑らかに撫ぜると、リフト内部は薄暮のような照明になった。
運転席には正操縦士の安崎が座り、その左側に深海ナビゲーターのカマタ・ケンゴが並んだ。
徳永は指示用シートに腰を下ろすと、オートデリック(障害物などを吊り上げて移動させるクレーンの一種)のグローブを装着した。リフトの外側にあるアーム型クレーンと連動しており、指先の繊細な運動まで伝わるシステムになっているのだ。両腕を左右にひねったり、指先がスムーズに動くかどうか確かめる。動作はスムーズだ。
「準備よし、降下」
徳永は第一声を発した。
操縦士の安崎が操作レバーを動かしながら復誦する。
「準備よし。降下、ヨーソロ」
最初に眼に入ったのは、スクリーンに映るエメラルドグリーンの海の色だった。透明度の豊かな水中を、太陽光の環が下方へゆっくりと沈んでいった。リフトが吐き出す気泡に太陽光が乱反射して、天使の環のように見えるのだ。
リフトの推進駆動音が伝わってきた。
水深五十メートルを過ぎると澄み切ったエメラルドグリーンは夜のとばりのように暗くなってくる。リフトの投光器から照明が放たれると、辺りは群青色の光に満たされていった。
海底鉱脈の掘削用ドリルパイプが遥か下方の海淵まで延びているのだが、無数の投光器の光をもってしても、その先端をまだ捉えることはできない。
リフトは何事もないかのように垂直に下降していった。
水深百メートル、百五〇、二〇〇・・・
深度計のデジタル数値が刻々と変化していく。
「深度四六二八メートルまであと三二五〇メートルです」深海ナビゲーターのカマタ・ケンゴがデジタルメータを凝視しながら報告を始めた。「現在の下降速度は十二ノット。到達予定時刻は・・・九分後」
徳永はカマタの報告を聞きながら、海中の十二面モニタを眺めた。至る箇所に取り付けられたカメラから送られてくる画像を念入りにチェックしていく。
直径三メートルのドリルパイプが鈍い鉄色に浮かびあがる。
問題の、四六二八メートル地点。
「ここか・・・見ろ、これは何だろう」
徳永はモニタをズームした。
人体らしきものが水中を泳いでいたのだ。しかもドリルパイプにしがみついて、ハンマーみたいな器具を打ちつけている!
「信じられん・・・四六〇〇メートルの深さだぞ。どうなってる?」
徳永の視線はモニタに釘付けになった。
「マントルノイドですよ」クラリッサ・ルイーズが冷静な声で答えた。「プラットホームを破壊しようとしてる。どうしますか」
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