1st memory あなたのことは知らないはずなのに、あなたのキスは覚えてる

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Side朝陽 10年ぶりの再会は病室……しかも片一方はベッドで眠っている。 俺が知っている凪波よりも、ガリガリに痩せていて、俺は言葉を失った。 おじさんとおばさんは、凪波の手をしっかり握り 「凪波!目を覚まして……!」 と呼びかけている。 「少し、よろしいですか?」 と初老の医師が看護師を伴って病室に入ってきた。 「はい、なんでしょう」 俺が代表で答える。 医師は、一瞬話すのを躊躇った様子だったが、1回咳払いをして 「大変申し上げにくいことなんですが……」 「はい」 「その……」 医師は俺の方をちらと見て 「あなたは……旦那様……ですか?」 「…………いえ」 残念ながら、と心の中で付け加えた。 「そうですか……では……凪波さんのお父様お母様は、凪波さんのパートナーの方はご存知ですか?」 「いえ……娘は10年間、1度も帰ってきませんでしたし……」 そう言ったきり、嗚咽でしゃべれなくなったおばさんに代わり 「連絡もたった1度しかしてきませんでしたので……私たちは、娘が一体どこで何をしていたのか、まるでわからないのです……」 とおじさんが答えた。 「そうですか……そうしましたら……」 医師が俺の方を見ながら 「ご家族の方だけに、ここから先はお話いたしますので……その……」 「……」 つまり、家族でもなんでもない俺は、ここから出て行ってほしいということなのだろう。 わかりました。 そう言って出て行こうとした時 「家族です!」 とおばさんが言った。 「おばさん……?」 「家族です!朝陽くんは……婚約者ですから」 医師が怪訝な顔で 「しかし、パートナーではないと……」 「婚約者ったら、婚約者なんです!親が決めたんですから!」 「はぁ……」 ちらりと俺を見る医師。 俺はどんな表情で、どんな言葉を言うのが正しいのかわからず、中途半端な苦笑いをするしかできなかった。 「わかりました。そうしましたら、ここにいる皆様を、凪波さんの家族と考えてお伝えいたします」 何か病気が見つかったのだろうか。 それもだいぶ重い……下手をすると、死んでしまうほどの。 おじさんとおばさんも同じことを考えたのだろう。二人とも肩を震わせている。 「凪波さんは、妊娠していらっしゃいました」 別の意味で、ショックな話だった。
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