1st memory あなたのことは知らないはずなのに、あなたのキスは覚えてる

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Side凪波 それはまるで、ドラマのようで。 私はこの世界の物語の登場人物ではないように思えた。 病室でベッドに寝かされている私を見ている彼ら……母、父、そして幼馴染は確かに彼らであるとは分かるのだが、記憶の中と目の前の景色があまりにもギャップがありすぎる。 かつての母は、ふっくらした……けっして似たいとは思わなかった体型の持ち主だった。 今の母は、疲れ切ったように背中を丸め、ぴんっと張られた顔の皮がしわしわになっている。 かつての父は、髭をしっかりそり、おしゃれなメガネが自慢の人だった。 今の父は、サイズの合っていないメガネを何度もかけなおし、無精髭に顔を支配されている。 そしてかつての幼馴染は、お調子者で、テレビで知ったギャグを次の日には狂ったように連発する……虫や蛙を捕まえてきては嫌がる私に見せにくるような……どうしようもない子供だった。 一緒に扱われるのが嫌になることも多かった。 でも、幼馴染だと名乗るこの人は、笑った時に日に焼けた顔からのぞく白い歯がとても綺麗で、体もずっと大きくなっていた。 短く刈り揃えられた髪型、そして昔よりずっと低く落ち着いた声で「大丈夫か?」と私を心配する言葉を繰り返す。 知っているようで、知らない人たち。 知らないことを、寂しいと思ってしまう人たち。 そういえば、高校1年の頃。 かつて好きだったアイドルを久々にテレビで見た時に 「あー昔はもっとかっこよかったのに」 と嘆いたことを思い出した。 あの気持ちと、今の気持ちは、少し似ている。
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