激怒の理由

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激怒の理由

「お父さま、どうしてこんなにたくさんの兵隊さんがいるの?」 幼い頃のオリエ。 子ども心に不思議に思うのも無理はない、それ程の見張りの数が、その大樹の周りには配置されていた。 「鈴樹(りんじゅ)の実、鈴果(りんか)を盗まれないようにね。守っているんだよ。この樹の実はランタンの命だからね」 「でも、鈴果はあまりおいしくないから、わたしは好きじゃない」 こうして遠慮がちに言えば、ことのほかそれが本心であっても、父親であるサンダンは、そうなのかと言って頭を撫ぜて許してくれる。オリエは怒らない父親の態度に安心し、遠慮なくその言葉を口にするようになっていった。 「村にはもっと美味しいものがたくさんあるわ。鈴果なんてマズイもの、全部嵐でふっ飛んじゃえばいいのよ」 ある日、いつものように鈴果を軽んじる言葉を口にした時、サンダンはひどく怒って、オリエの頭を手加減なしに叩いた。 「オリエっ、おまえはなにもわかってはいない! 一体、誰のおかげで生きながらえていられると思っているんだ! 鈴果を食べなければ、おまえたちは一年を待たずにすぐにも死んでしまうんだぞ!」 恐ろしい形相だった。父親の逆鱗に触れたのだ。オリエは震えながら叩かれた頭を抱えて、自室へと逃げ帰った。 思いも寄らない父親の激昂と暴力に、打ちのめされてしまって、涙のひとつも出ない。 幼いオリエはその日一日中、ベッドの中で震えていた。 「ダウナの若いのが、鈴果を盗ろうとしたらしい。自分の妹に食べさせようとしたようだ」 翌日、オリエは父親の激怒の理由を、村のあちこちで耳に入れることになる。 そしてこの時ようやく。 いつも一緒になって丘を転げ回ってじゃれ合う、二人の幼馴染が住まうダウナという存在から、鈴樹を守っているのだということを知った。真実を真実と、ようやく理解したのだ。 「そんな……嘘……」 オリエは、この騒動でもう一つの事実を知った。オリエの頭を叩いてしまったことを反省して謝りにきた父親が、神妙な様子で話を始めた。
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