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それでも生きていて欲しい
だが、そこにはまだ辛い事実がある。
たった一つの実を手に入れ、その命を長らえさせた者は、生き伸びることと引き換えに、故郷を追われる羽目になるのだという。
食べても食べなくとも、そこにあるのはどちらにせよ、『別れ』なのだ。
「こんなのおかしいわ。大好きな人たちと一緒に生きられないだなんて。こんなバカげたものが、運命だなんて!」
ベッドの中、長く思いに耽っていた。息が苦しい。もう乾いたと思った涙が、また溢れてきて、ボロボロと零れ落ちていく。
オリエは今まで考えてきた『運命』でぐちゃぐちゃになっている頭を整理した。
ライアやセナが、二十歳になる前に鈴果を食べることができれば。
「……これからもずっと生きられる」
寿命を延ばすことができ、命の期限、二十歳という壁を超えることができる。
オリエは震える思いで考えた。
「こ、今年のダウナの十八歳は……五人。ライアとセナ、どちらかが鈴果を口にできる確率は、」
言葉を続けようとして、オリエは苦笑した。
「どちらかが鈴果を口にできたとしても……」
生き長らえた方がオリエを幸せにするのだと言っていた。
けれど、どう考えてもそれは叶えられない夢だ。
鈴果を口にしたものは、ここランタン、ダウナの両地から、出て行かねばならないのだから。
「きっと私を安心させるために、そう言ってくれたのね」
その優しさと想いに触れ、オリエはふと小さく笑った。
幼馴染二人との別れが、すすすとその距離を縮めて、近づいてくる。
強く言葉を紡いでくれた二人の面影と、今まで無邪気に過ごしてきた三人の幸せな時間を想う。
「……それでも、二人には生きて欲しい」
それが今のオリエの全てだった。
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