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一縷の望み
「分かってるわ」
「恨みっこなしだ」
「了解してる」
それぞれ口にした言葉が、ダウナにある役所の天井に響いていった。その様子を見ていた長も、安堵の息を漏らした。
「それにしても、オリエとの結婚は諦めたの?」
ユウが腰に手を当てて、これだから男は、という呆れたような体でライアとセナを見る。
「諦めたとか、そういうんじゃないんだ。誰と結婚するかはオリエが決めることだからね」
「セナの言うとおりだ。オリエの人生はオリエ自身が決める。俺たちはそれに従うだけだ」
「彼女が女王さまってわけね」
リアンが口を挟んだ。それは、幼い頃から側でこの三人を見てきた、同級生の言葉に他ならない。
「まあ、そんなとこだろうね。君たち三人はずっと、女王と従者二人って感じだったもんな」
カナタが茶化した言い方をして、ライアの反感を買った。
「そんなことはない。俺らは平等だ」
「なにを言ってるんだ。ランタン人と俺らダウナが平等ってことはあり得ないだろう? 俺たちは、鈴果のおこぼれしかもらえずに、あと二年で死ぬ運命なんだぞ。これが公平って言えるのかよ。不条理だ、俺は納得できない」
すでに辞退の決意でいるからか、カナタの態度に乱暴さがまとう。やりきれない怒りの矛先が、ライアに向いたと言ってもいい。ライアは苦虫を噛み潰したような顔で、カナタをねめつける。だが、カナタの気持ちも理解できると、言葉を選んで丁寧に言った。
「だが、あの樹はランタンの土地のものだ。彼らが優先されるのは当然だろう」
「けどよ、老い先短いじいさんやばあさんまで食ってるんだぞ。俺ら、若者に譲ってくれたって……」
「命に若いもクソもあるかよ。じいさんばあさんだろうが、愛する家族がいるんだぞ。同じだ。同じ命なんだ」
セナはその二人のやりとりを横目で見ながら、『死』について思いを馳せた。どちらかと言えばカナタ寄りの気持ちを、抑えることができていない。
(そうだ、この世界は不平等で成り立っている。僕たちは愛する人と生きることもできないというのに……)
けれど、これが『運命』と理解して受け入れるとするならば。
(オリエには幸せになって欲しい)
ただ一つの願い。
その時、セナが握り込んでいる拳が、微かに震えていることに、誰も気付いてはいない。
(僕が、オリエを助けるんだ。それならば、この方法しかないんだ)
自分に言い聞かせるようにして、そう気持ちを新たにすると、セナは唇を軽く噛んで、拳の震えを止めた。
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