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鈴果を手にできる者をどういう方法で決めるのか、それはその年その年で決定してきたという歴史がある。 ある年は運動能力の優劣で決め、ある年は試験の点数の高さで決められた。 それは、少しでも頭脳や身体能力の秀でた遺伝子を次世代に遺したい、ダウナ人のそういった悲痛な願いが込められてきたためであったのだろう。 けれど、ここ数年は、優秀な頭脳の持ち主が選抜されている。 その歴史が刻まれている『ダウナ記録史』を広げたまま、セナは目を強く瞑っていた。 「今回は、どうするの?」 ユウが、さも言いにくそうな表情を浮かべたのを機に、五人が顔を見合わせた。 「クジだ、クジが平等だ。その時に運の良いものが残る。それが一番、平等だと思う」 ライアが躊躇なく言う。 確かに今年の面々は、優秀な者ばかりで、能力で優劣をつけるのは難しい。 ライアは、弦楽器リンドルとハーグの演奏者であり研究者。 セナは、ランタンとダウナを併せた学校での学年一の秀才であり、常に主席を保っている。 カナタは、タンタという植物のツタで作られた球を蹴り上げながら舞を披露する舞踊家。だが、この時点でカナタは辞退の意を表している。 リアンは、お腹に宿る赤ん坊もその遺伝子を受け継ぐであろう、ダウナ一の美貌の持ち主。 ユウは、植物の一種デネを煮詰めて作った顔料を使って、オリジナルの美しい文様を生み出す芸術の天才だった。 この中の誰が生き残っても、その優れた才能は後世へと繋がれていくだろう。だからこそ彼らは、そこに存在する才能における『平等』の意味を理解している。 皆が互いにそれぞれの分野での能力を認め合い、尊敬し、大切に想ってきたからだ。 「そうだろうと思って、クジは用意してある。誰が選ばれても、恨みっこなしだ」 丸テーブルの上にあった円形の筒を取り、セナがみなの前へと出した。そこに入れられているのは、五本の木の棒。 そこから、棄権するカナタの分を一本抜く。 抜いた木の棒の先には、黒色の印が付けられていた。 「四本中、一本。当たりの棒には、赤い色が塗られている」 セナが円形の筒を差し出した。 そして、四人それぞれが手を伸ばして、一斉に棒を引き抜いた。
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