緑陰の揺れる丘で 〜一途な愛の代償は〜

生きる道は絶たれた

「これはもう、腹をくくるしかねえな」

ライアはしんと静まり返った漆黒の夜空を、開け放たれた自宅の窓から見上げながら呟いた。
窓枠に腕を伸ばして手を掛け、大きく、けれど細く息を吸う。

今でもライアは両親のいない寂しさを、空を見上げては紛らわせる癖があった。
夜空に散る星や月、昼、青空に漂う雲、それらが自分と同じように孤独なのではないかと思えたからだ。その時々に違う、自分の心情の移り変わりに重ねているのだろう。
浮かれた時もあった。悲しんだ時もあった。寂しい時もあった。

「はは、こうもツイてないとは……」

鈴果(りんか)を口にできなかった。
生きる道は絶たれてしまった。

ただ、セナがその権利を得たことだけに、救いを感じられた。セナならオリエを安心して任せられる。いったんはオリエのもとを離れることになっても、生きていればいつかは側に寄り添えるだろう。

ただその役は、自分が担いたかった。そんな未練がましい気持ちも残ってしまう。

黒色に塗りつぶされた、筒から引っ張り出した棒の先が、脳裏に焼きついて離れない。
ライアは顎を落として、足元を見つめた。

くじで運命が決まった瞬間。

リアンは声を上げてお腹を抱えたまま泣き崩れ、カナタは目をぐっと瞑ったまま唇を噛み締め天を仰いだ。

そして、ユウは。
そのまま踵を返して、走り去ってしまった。
他人に涙を見せられない性分が邪魔をして、人前で泣きわめくことができなかったのだろう。

「そして、俺は……」

黒色の棒の次に頭に浮かんだのは、オリエの笑った顔。
いつまで経っても幼さの残る、心からの笑顔。

妹でもあり、姉でもあり、友達でもあり、時には相棒であり。
そして時々は、恋人だった。

ライアは苦笑し、

「まあ、それは俺が勝手に、そう思っていただけだがな」

呟くと、胸に沈む重りのようなものが、その重みを増してさらに沈んでいく。

美しい凛としたこの夜空は、決してライアの心を慰めない。
この世界に存在する美しいものは、こちらから歩を進めて近づかねば、応えてはくれないことを知っていた。
長年、弾き勤しんできたハーグやリンドルのように。

ライアは一度だけ、はあっと大きく溜め息を吐くと、開け放した窓を閉じるために、その窓枠に手を掛けた。

すると、誰かが近づいてくる足音。かすかに聞こえてくる。
何となく予感はあった。
ライアは暗闇へと目を凝らすようにして、窓から身体を乗り出して、声を掛けた。

「オリエ？」

じゃりじゃりと砂を踏む音が暗闇に響き渡り、次第にその音を大にする。

「オリエだろ？」

もう一度声を掛けると、次には応え返ってきた。

「ライア」