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慰め
(やれやれ……)
そんな気持ちになった。
オリエが慰めにくることぐらい、長年の付き合いで容易に想像ができた。合わせる顔がないというよりは、どんな顔をしていいのかが分からない。
暗闇の中、次第にぼんやりと姿が現れてくるのを待ち、再度声を掛けた。
「今、ドアを開けるから待ってろ」
窓を閉めてから玄関へとまわる。ドアを開けると、オリエはすでにそこに居た。
けれどそこで、ライアは自分が予想していたのとは違う、思いも寄らぬオリエの表情に出くわし、いたく動揺した。
ライアはオリエかセナが来るとしたら、それは自分を慰めるためだろうと思い込んでいたからだ。
悲しいような、どうしたら良いのかが分からないような、なんと声を掛けたら良いのだろうか、そんな複雑な顔を携えてやって来るのだろうと思っていた。
けれどこの、目の前のオリエの表情。
少し茶味がかった眉も下がってはいないし、その眉根にも皺の一つも寄せてはいない。
大きくも小さくもない瞳は、いつもと変わらない優しさの漂うそれだった。
定番の白の服に、腰に巻いた薄橙色の巻きスカートがとても似合っている。
似合っている、と口にしたのは、ライアが先だった。
新しく買ってもらったの、と言って恥ずかしそうに巻き布を右手で押さえつけているオリエの姿を見て、自然と言葉が出た。
ライアが言うと、セナが慌てて、僕も似合っていると思う、と言葉を重ねた。
その巻き布は、ライアに幼さの残る頃の三人を思い出させた。
薄橙色の巻きスカートは、オリエが背を伸ばしていくにつれ徐々に丈を短くしていき、今は裾が目一杯に伸ばされて重なる部分を少なくしている。
それでも膝の辺りで、アシンメトリーの裾がゆらゆらと揺れているのを見て、心底美しいと思った。
「ライア、」
名前を呼ばれると、途端に愛しさが込み上げてくる。
二人はどちらからともなく、抱き合った。腕に込められている力の加減は、若干ライアの方が勝っている。
だが、オリエのこの抱擁にも力強さが宿っている。慰めにきたのだから、まあそうなのだろうと、ライアはオリエの薄茶色の長い髪に顔を寄せた。
「……話があるの」
くぐもった弱々しい声が肩に掛かる。
「うん、聞くよ。それに、俺の方も話しておきたいことがある」
腕を伸ばして身体を離す。だが、まだ離しがたい。愛しい存在が、この腕の中にあるのだから。
「話したいことがあるんだ」
ライアはもう一度念を押すようにそう言うと、やはりオリエを抱き締め、白い首筋に唇を寄せた。
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