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その手はもう握れない
「美味しいよ、とても上手にできている」
机の上に並べられた菓子に、もう一度手を伸ばす。
オリエの手作りだというパンナをつまみ、ライアは口の中へと放り込んだ。パンナとはランタン特有の菓子で、砂糖の甘さとドライフルーツの酸味の絶妙な味わいに、ダウナでも人気の菓子だ。
「ん、うまい」
「干したチカを入れたの。セナにも持っていったから、三つになっちゃったけど」
先にセナに会ってきたと聞いて、やれやれ何を言い含められたことか、と苦笑いしか出ない。ライアは、その苦笑いを見られないようにと、コップに淹れられたハーブティーをごくっと一口飲んだ。
「……オリエも食べろよ」
「ううん、私は家でつまんできたから」
「……セナは何か言っていたか?」
「ライアに何か言うことがあるなら、きっと自分で来ると思う」
オリエが視線を落とす。
落とした視線の先には机の上に投げ出された、オリエの白い両の手が重ねて置いてある。
ライアは胸が苦しくなった。
来年、その手を握ることができても、さ来年は触れることすらできなくなるのだ。そう考えた瞬間、死が一層近くに感じられた。
たまらなくなった。その恐怖から逃れるように、振り払うようにして手を伸ばした。
けれど、その手はオリエの手ではなく、皿の上のパンナに向けられた。ライアは、最後の一つをつまんで、口に入れた。
すると珍しく、ガリッとなにか硬いものが歯に当たった。
「んっ」
オリエが顔を上げて、
「あら? チカの種が取りきれてなかったかしら」
不安そうな顔をライアへと向ける。
「慌てて作ったから……ごめんね」
「ん、大丈夫だよ。こんなもの、飲み込んじまえば……」
ゴクリと飲んでから、コップのハーブティーを流し込む。すると、喉には引っかからずに、そのまま流れていった。
ふうと息をついてから、ライアはオリエを見た。
悲しげに歪む顔。その顔。
「オリエ、これぐらいなんてことないって。歯も折れてない、し、それに腹を壊すわけじゃ、な、い……」
言葉が途中で折れた。
オリエの表情。今までに、見たことのないような、生気のない顔。
その顔に、まさかと思った。
「……オリエ?」
ライアは、背中にひやりと冷たい何かがすり抜けていくのを感じた。
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