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もう生きてはゆけない
ライアは思い出を辿りながら、もう一度顔に水を叩きつけるようにして洗い、流しっぱなしだった水道の蛇口をひねって、水を止めた。
切れた唇にしみ、その痛みが強引にも現実へと引き戻す。滲む血をタオルで拭った。
(……オリエが死んでしまうのなら、俺も生きてはいけない)
今までに思いもしなかった考えが、まるで植物の蔦のように頭の中へと蔓延っていく。
ダウナ人である自分やセナの死は、いつも側についてまわり、身近だった。が、ランタン人のオリエが死ぬなんてことは、これっぽっちも思ったこともない。
小指の先ほども。
(もし俺たちが死んだら、セナはどうするのだろう……)
「……本当に、本当にすまない」
口にする謝罪もなにもかもが虚しい。
ライアはオリエが自分が食べるはずだった分の鈴果を、手作りのパンナに混ぜ込んで自分にに食べさせたことを、腹立たしく思ってみたりした。
それをなんの疑問をも持たずに口にしてしまった自分の愚かさと同じように。
虚しい。そして、なにもかもがもう遅い。
ライアは握りしめていたタオルを鏡に向かって投げつけると、洗面台に両手をついて突っ伏した。
「う、うう、」
嗚咽がこみ上げてくる。それを抑えるようにして、ライアは手で口を塞いだ。
(俺はもう、オリエから離れて生きることはできない。オリエを失ったら、俺も生きてはいられないんだ)
そう心に決める。
いや、決めるのではない。
その考えは、知らないだけで元々胸の内にあったのだ。その考えに至ったのが自然の流れだったとでもいうように、しっくりとくる。
運命だ。
けれど、いつまで経っても嗚咽は収まらず、そして涙は洗面台へと落ち続けた。
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