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迷いのなかで
オリエの父親は、フューズというランタンの最高職に就いている。
長きにわたってその職務を全うすることで築き上げてきた威厳は、非常に力強く決して揺るがないものだった。
そして、その威厳をもってランタンを平和裡に治めてきたという経緯がある。
そのサンダンの言葉には、有無を言わせぬものがあり、ライアとセナは、幼い頃からこのオリエの父親でありフューズであるサンダンを苦手としてきた。
それは娘を男に取られまいとする父親のヤキモチをぶつけられるのが恐いというような、そういった安っぽい類の感情ではない。
サンダンという人間の圧倒的な存在を前にして、どうしても怖気づいてしまうのだ。
成長してからは随分とマシになってはいたが、ライアはやはり今回のこともあって、何も言うことはできなかった。
「どこへでも行けばいい、行き先はお前たちに任せるとしよう。だが、これだけは忘れてはもらいたくない」
普段仕事をする執務室で、サンダンは腰を浮かせて椅子に座り直した。背もたれに背を埋める。古めかしいが重厚な椅子から、ギギッと音が鳴った。
「お前たちの命は、オリエの命だ」
「…………」
言われるだろうことは分かっていたが、面と向かってこれが現実だと突きつけられると、グッと胸が絞り上げられるように息苦しくなる。
それは自分だけの苦しみではなく、親が娘を失うということの想像を絶する苦しみが、含まれているのだ。
ライアはこの時、自分の親が、息子である自分を置いて死んでいった苦しみや悲しみを、初めて知った。
「僕は、ルキアに行きます」
セナが落ち着いた口調で言った。
「そうか、それでライアはどうするのだ?」
唐突に聞かれて、答えに詰まった。
「……俺は、」
サンダンが鋭い視線を寄越してくる。
ライアは自分の心の内を見透かされたような気がして、動揺した。
それはセナが、今後の身の振り方を決めていたということにも少なからずの衝撃を受けた、という動揺もあった。
「まあ、いい。どこへ行こうが、私たち家族には関係のないことだ」
オリエには今後、関わらないようにと釘をさされて、ライアのその動揺が増した。
「さあ、荷物をまとめなさい」
追い出されるようにして、部屋を出る。
ライアは、セナに今後のことを聞いておきたかったが、その時はどうしてもセナに声をかけることができなかった。
そして、そのまま一言も会話を交わさずに、サンダンの屋敷を出た。
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