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連れていくのは
屋敷の中庭を横切る。ライアはその屋敷の二階にあるオリエの部屋を見上げてみた。
大きな窓は、幼い頃オリエを誘いに来て声を掛けた時のままに、そこにある。
カーテンは閉められ、ひっそりとしている。
(オリエは泣いていないだろうか)
胸が潰れそうに痛む。
(俺を生かしたことを、後悔してはいないだろうか)
会いたくて仕方がなかった。会って、話をしたかった。もし、胸に滾る思いがあるならば、オリエを抱きしめたかった。
そしてもう一度、窓を見上げる。
身を引きちぎられるような思いで、ライアはその場を離れた。
✳︎✳︎✳︎
「ルキアに行くっていうのは、本当か?」
ライアの問いかけに、セナは素直に答える。
「ああ、そうだよ」
さっさと荷造りをしてから、友人にも簡単な挨拶を終わらせたセナはこの日、ライアの家を訪ねていた。
ライアは行き先も決めず、もちろん荷物もまとめていない。セナは散らかったライアの部屋を見回してから、呆れたように言った。
「ライアは、本当にオリエのこととなると、ダメになるな」
「……分かってるよ」
図星をつかれて、言い返す気力も残っていないライアの様子を見て、セナは苦笑した。
「殴って悪かった。あれはオリエの意思で、君は何も悪くない。僕が間違ってた、許して欲しい」
「……おまえもオリエも悪くねえ。悪いのは俺だ」
「ライア」
返事がないのを不服そうに、セナはもう一度声を掛けた。
「ライアっ‼︎」
その声に驚いて、ライアはうなだれていた顔を上げた。
「僕は、オリエを連れていく」
なんなんだと思った。いったいなにを言っているのだと。
その意味不明な言葉に、ライアが疑問の眉根を寄せる。
「……どういうことだ?」
「そのままの意味だよ」
どす黒い感情がふつふつと湧き上がってくるのを感じた。
そのままの意味だとすれば、オリエはセナと結婚するということになる。
真っ黒な感情が今にも沸騰して溢れてしまいそうになり、ライアは握り拳を作ってそれに力を込めると、抑えた声で言った。
「……おまえにオリエはやらない」
「ライア。君、オリエと一緒に死ぬつもりなんだろ?」
意表を突かれて、拳を握り直す。思いを見透かされ、動揺もした。
「ライアが何を考えるかなんて、分かってるよ。でも、僕は生きる道を選ぶ。もちろん、オリエもだ」
「…………」
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