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受け入れられない
「死ぬとか結婚しろとか、意味がわからない! そんなバカげた話は二度と聞きたくないっ」
オリエンティンは次から次へと湧き上がってくる荒々しい言霊を、澄んだ空気へと吐き出しながら、小高い丘に立っていた。眼下に広がるは、広大な領地。丘からその村の営みを見下ろしながら、涙で冷えた瞳で言い放った。
「あんなこと言うなんて、本当にバカげてる」
怒りだった。自分でも自覚するほどに震える声。握り込んだ拳。涙も。何もかも。
提案されたのは、「残り少ない二年間で、どちらかの男を選んで結婚し、また可能ならば子をもうけること」
乱暴に意訳すれば、この通りだった。
昂ぶる気持ちを落ち着けるのはいつも、オリエンティンの出身地ランタンの緑豊かな景色。この丘からはその村の様子が、よく見える。緑の中に点々とある家は、材木や瓦で作られた質素な平屋ばかりだが、生い茂る新緑のある一画に、彼女の家も埋もれるようにして建っている。
美しい絵画のような風景。オリエンティンはこの丘から望む景色が、子どもの頃から好きだった。
ただ、今日の彼女の瞳はいつものように透明ではない。この丘へ登る前、オリエの小さな胸を木っ端微塵にしてしまうような、衝撃的なできごとがあったからだ。信頼している幼馴染の二人から、この提案が伝えられたのだ。
「もしこれが運命だって言うんだったら、運命の方が間違ってるのよ!」
手の甲でぐいっと目元を拭った。濡れた頬に、いつも優しく吹く風は今日、少しひんやりとして冷たい。
比較的、樹木や緑の植物が多いこのランタンの村では現在、毎年恒例の樹木祭が開催されている。一年に一度のみの祭り。今日はその祭りの最終日でもある。
祭りの最終日というと普通、徐々に盛り上がりを見せて賑やかなるものだが、この樹木祭だけはその『奇異な理由』から、村は異様なほどの緊迫感に包まれる。この日ほど、村が緊張でピリピリし、かつどんよりと淀んだ日はないくらいだ。
ただ、この丘からはそんな村全体の緊張感も重い雰囲気も窺い知れない。ただただ翠、そして平和で平穏だった。
「神様は、私たちをいったいどこまで苦しめたら気がすむのかな……」
オリエンティンは、普段だったら口にしないような台詞を呟いて、小さく失笑した。
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