指針

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「ライア、よく聞いて欲しい。僕は、あれ以来ダウナ歳時記をもう一度読み返してみたんだ。そこに気になる記述があってね。971年の次の年から鈴果を食べたダウナ人はみんな、ルキアに向かっている。誰一人として、他の地には行っていないようなんだ」 ライアが怪訝な顔をする。 「それがなんだってんだ」 「ルキアに研究施設があると噂に聞いた」 「なに?」 セナは、そこら辺に散らばっている服や本を手で退けてから、ライアがいつも寝転がっているベッドの上へと腰掛けた。 ライアも近くにあった椅子を引き寄せて座る。 椅子の脚が何かに当ったようだったが、構わなかった。 「そこにオリエを連れて行く」 「研究って何だよ」 「それは分からない。けれど、その研究施設にオリエを救う術があればと思っている」 「971年といえば、鈴果を食べたダウナ人が二人いた年だな。ランタンに鈴果を食べる直前になって亡くなった老人がいたとかで、もう一つがダウナに回ってきたんだろ」 「うん、その年は稀にみる才能の当たり年だったとある。頭の出来で候補者は即決。一人はルキアに向かい、もう一人は大陸に向かったと記述がある」 ダウナ人は幼い頃から大人不在の厳しい環境で育っているため、どんな環境下でも生きていけるように育ってられている。なにもかも、自分でこなすしかないからだ。また、その知恵を、『ダウナ歳時記』から学び、完璧に習得している。 それに加えて、ランタンの学校にも通って通常の勉強もするため、知識力、生活力にも非常に長けている。 その一人が向かったという『大陸』。例え未知なる土地であっても、生きていける要素は十分にある。 ダウナ人は、自信と勇気さえあれば、見も知らぬ土地へと躊躇なく旅立つことも可能だ。 「僕はルキアへ行くよ」 久しぶりにこんなにも長く話した。喉も舌も渇いてくる。 ライアは静かに立ち、隣の部屋から飲み物を持ってくると一つをセナに渡してから、もう一つを飲み干した。 「カクアリか、オリエが好きなジュースだね」 セナが言って、ライアが頷く。 「いつも一本のカクアリを三人で分け合った」 思いが溢れそうになる。だが、そうこうして感傷に浸っている場合ではない。 「じゃあ、お前はそこへオリエを連れて行くと言うんだな」 ライアは構わずに先を促した。 「それで、オリエを助ける方法が見つからなかったら?」 「その可能性もある。だからライア、君に第二の方法を探しに行ってもらいたいんだ」 「第二の方法? ……俺はどこへ行ってなにをすればいいんだ」 「大陸を目指して欲しい。鈴樹や鈴果に代わる、なにかを見つけてきて欲しいんだ」
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