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愛へと繋がっている
普段から冷静で、自分の感情を隠したがるセナ。ここへきてそんなセナのオリエへのなりふり構わない強い愛情が感じられ、逆にオリエと死を共にしようとした自分が情けなく思えてくる。
(本当の愛情というものは、こういうことなのかも知れないな)
『ダウナ歳時記』を読み返したと言っていた。
それは、厚さ数十センチもある分厚い本が、二十五巻まで揃う、圧巻の歴史資料だ。
ダウナとランタンを併せた学校で、主席を通した記憶力の良いセナだが、一度は通して読んだことのある本だとしても、その内容をいちいち覚えているだろうか。
一から『ダウナ歳時記』を読んだのだ。徹夜だっただろう。この数日でそんな分厚い本を読破するとは、もうそれだけで頭が下がる思いだ。
そしてそれは、オリエへの深い愛へと繋がっている。
「ライアは、大陸に行くそうだな」
サンダンの厳しい声で、我を取り戻したライアは、慇懃に返事を返した。
「はい。そう考えています」
「…………」
沈黙したサンダンを見て、すかさずセナが言葉を繋げた。
「フューズ、お願いです、僕たちはオリエを助けたい! 万にひとつの可能性だとしても、その可能性にかけたいんです。オリエを連れていくことを、どうぞお許しください」
頭を下げるセナに合わせて、ライアもこうべを垂れる。床に敷いてあるランタン織の絨毯の図柄を遠くに見つめながらも、ライアは思い出した。
こんな風にサンダンに頭を下げるとしたら、それはオリエに結婚を申し込む時だと考えていたことを。
ライアの胸に、もやもやとしたものが去来する。
そうだ、認めよう。
本心は、自分だってオリエと一緒にいたいのだ。
セナとともに行かせることで、二人がそのまま結ばれてしまう可能性もある。愛情深い幼馴染の三人だ。お互いの愛を確認し恋に落ちてしまうなど、一瞬のことに違いない。
それが、この胸のもやもやの原因の一つだと、認めよう。
けれど、樹木祭の日、いやそれ以前から、生き残った方がオリエを幸せにする、そう決めた時から、ただただオリエが幸せになればいい、そう自分に言い聞かせてきたことも事実。
(オリエが生き続ける道を模索するとするならば、これが可能性のある一番の方法だ)
「お願いします」
腹の底からの、力強い声が出た。
そのライアの声を聞いて、サンダンはただ一言、分かったと言った。
こうべを垂れたまま、二人は身体の緊張を抜いて、心でほうっと息を吐いた。
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