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焦り
「ライア、父が戻ってきたわ!」
シマが忙しそうに、料理の手を動かしながら振り返る。
ドアを開けた手でカバンを下ろし、ライアは大陸原産のサルダ芋が入った大きな袋と小袋を一つ持って、奥へと入っていった。
袋をシマに手渡すと、シマが相好を崩した。
「やっぱり、ルルさんってば、ライアのことがお気に入りなのね」
小袋の中を覗き込む。
数種類の小ぶりな根菜がぎっしり詰められているのを見て、さらに重ねた。
「いつもは、おまけでこんなに貰えないもの」
ライアは玄関に戻り、仮に置いておいた自分のカバンを拾い上げると、「ハトゥは、今どこにいる?」と、シマを急かすようにして言った。
「父さんはお隣の家よ。多分、獲ってきたお肉をおすそ分けしに行って、話し込んでいるんだわ」
「ちっ、隣か」
珍しく舌打ちをしたライアに、シマが苦く笑う。
「そう焦らないで。直ぐに戻ってくるわ」
手に持っていた皿をカチャカチャと音をさせて、棚へと仕舞う。
ライアがどかっと椅子に座るのを見て、シマはそのまま小さく苦笑すると、同じ棚の奥から手作りの焼き菓子を取り出した。
そして、思い出したようにしてぷっと小さく吹き出すと、
「ライアは本当に、お隣のおじいちゃんが苦手なのねえ」
言いながら、焼き菓子を小皿に取り分け、その一つをライアの前に置く。
図星を指されて、むうっと不機嫌な顔を見せると、焼き菓子を掴んでばくばくっと乱暴に食べた。
「あのじいさん、口うるせえんだよ」
会えば必ず、シマを嫁にしろと言ってくる。
今、シマの父親に会っているなら、同じことをしつこく言い続けているだろう。
(それより、あんたに聞きたいことがあるんだ。早く帰ってこい、ハトゥ)
ライアは最後の一口を水で流し込むと、顔を上げて目を瞑った。
✳︎✳︎✳︎
頭では分かってはいた。
大陸に到着するまでに三月はかかってしまうことも。
この地に辿り着いた時、ライアは焦りの気持ちに大きく支配されていた。
少しでも早く、オリエを救う手段を探し当て、ここからさらに三月はかかるルキアへと出発しなければならない。
しかも連れてきたロキロキは、途中毒虫に刺されて呆気なく死んでしまい、またどこかで新たなロキロキを手に入れなければならなくなった。
金も底を尽き、時間もない。
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