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ダウナの噂
それらを考えると、ライアは現実の厳しさを目の前に突きつけられ、軽い眩暈を感じた。
焦燥はやがて、どこかから諦めの気持ちを連れてくるようになった。
弱っていく心を抱えきれなくなった時、猟師の娘のシマに出逢った。
「ライアはダウナから来たのね。母は大陸人だけど、父はあなたと同じダウナ人よ」
それを聞いて耳を疑った。
何度も訊き直した。けれど怪訝な顔をしながらも、シマは同じ答えを繰り返す。
「嘘だ、街を出たダウナ人は、ほとんどがルキアへと向かったと聞いている!」
興奮を抑えられず、声を荒げると、シマは落ち着くようにとライアを宥めた。
「ここら辺ではダウナ人は珍しくないのよ。でも、ダウナのことにはみんな口を噤んでしまうの。もし、ダウナの話を訊きたいのなら、私の父を待った方が良いと思うわ。父なら何か話してくれるかも」
控えめに笑顔をほころばすシマに、ライアはいつしかオリエの面影を重ねてしまう。
「父は猟師なの。山へと入ると半年ほどは戻らないけれど、もうそろそろ帰ってくると思うから、それまではうちで待っていたら?」
シマの人懐っこさにほだされて、ライアは当分の間、シマの家で厄介になることを決めた。
食べさせてもらう代わりに、薪を割ったり買い物の荷物を運んだりという力仕事をこなしながら、シマの父親を待つこと、ふた月。
じりじりと時間が進むのを、気が狂いそうになりながらも、ライアは待った。
戻ったハトゥにダウナの話を聞き、そして、そこにオリエを救う方法の道標のようなものがあったなら。
ライアは祈るような気持ちで、待った。
実はその間、そこら中を回ってダウナ人と聞けば追いかけまわして、何度も話を聞こうとはしたのだった。
971年に大陸へと来たはずのダウナ人についても、話してくれるまではと粘ってはみたが、やはりシマの言う通り、ダウナの名を出すと途端にみな口を噤んでしまう。
そのうちにそこら中を嗅ぎ回っているライアの噂が広まり、みなライアに近づかなくなった。
その様子を見て、ダウナ人の間でダウナの話題は、禁物なのだと悟った。
(これで、もしハトゥが話してくれなかったら……)
嫌な考えは常について回る。
それをどうやって考えずに、日々過ごすか。
どうやったら前向きに志を持ち続けていられるのか。
それがいつしか、ライアの命題となっていった。
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