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秘密
(これで、この思いからも逃れることができるのだろうか)
厳しい表情を崩さないハトゥを前にして、ライアは許しを乞うような気持ちでいた。
けれど、ハトゥは耳を疑うような話をして、ライアをさらに奈落の底へと落としたのだった。
「……どういうことだ」
「話した通りだよ」
「じゃあ、ここら辺のほとんどがダウナ人だという話は本当だと言うのか」
「ああ、大陸人の方が少ないくらいだ」
「けれど、ダウナの街には二十歳までしか生きられない子供しかいないんだぞ。どうして、ここには大人のダウナ人が、そんなにたくさんいるんだ?」
「ここには大陸で結婚したダウナ人同士の子供もいるんだが、君らダウナの村の子供は特別なんだよ。選ばれて、意図的に集められている」
ここでハトゥが唇をぐっと引き結んだ。話すか話すまいかを考えあぐねているようだった。
ライアはそのハトゥの顔を見て、周りのダウナ人が話を渋っていたのを思い出し、厳しい表情を浮かべた。が、全てを聞かねばここからは去らぬ、そんな強い意志がライアのその強張った顔ににじみ出ている。
「……いいか、まず先に言わねばならぬのが、鈴果を食べ損ねたというその女を助ける方法だが。申し訳ないが、俺には心当たりがない。悪いな」
「…………」
ライアの握った拳が震えているのを見て、気の毒そうな顔でハトゥは続けた。
「とにかく、君らが育ったダウナの街は、全てはランタンの為に存在するのだ」
シマが用意した軽い食事と飲み物を口に入れながら、ハトゥは話し始めた。
「ランタン人というのは、実は非常に脆い人種でね。ライア、君は人間がみな、身体になんらかの免疫機能を持っていることは、知っているだろう? 学んだはずだぞ、ダウナでは医学も勉学の一つだからな」
「ああ、知っている」
「普通なら病原体や細菌が外から身体の中に入ってくると、そこで免疫機能が働いて、その原因の元をやっつけて身体を守るんだが、ランタン人はその免疫機能というものを、ほとんどと言っていいほど持っていない。放っておくと、直ぐに弱って病気や怪我で死んでしまうんだ」
「嘘だ、彼らのほとんどは長命だぞ!」
「…………」
「長生きする年寄りもいるんだ、そんな弱いはずが、な、い、」
言葉の語尾が揺らぐ。
「……鈴果、か」
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