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長命と短命
ハトゥが神妙な顔をしてから、水をぐっと流し込んでコップを空けた。
「あの鈴樹からできる実が、ランタン人の免疫となるんだよ。それが、どうしてなのか、どう作用しているのか、その仕組みなんかは詳しく知らないがな。まあ、これは俺の想像だが。鈴果の成分か何かが、病原体から守るバリアのような役割を果たしているんじゃないだろうか」
「…………」
「彼らは一年に一度、鈴果を食べるだろう。それで、一年間は病気から守られるってだけで、長命な種族というわけじゃないんだ」
「……じゃあ、ダウナ人は、」
ハトゥはさらに難しい顔を作る。
ふうっと大きくため息を吐いてから、ほとんど手のつけられていない料理の皿を横に避けると、目の前で両の手を合わせて握った。
「……いいか、よく聞くんだ。ダウナ人は、実のところとても生命力が強い。しかも、人種的に優性だ。おっと、言葉が悪いが許してくれ。けれど事実、ダウナ人は俺が会ったどんな人種の中でも抜きん出て頭も良いし、身体能力、芸術センス、全てが優秀で素晴らしい才能を持っている。ライア、君は何が得意だ?」
「ライアは、リンドルとハーグの演奏が、本当に素晴らしいの」
それまでは心配そうに様子を窺っていたシマが嬉々として入ってくる。そのシマの言い方に他人とはいえ得意げな思いが含まれているのを感じて、ハトゥは苦笑した。
「お前がそんなだから、隣のじいさんがうるさいったらない」
シマは頬を赤らめて、「心に染み込んでくるような音色よ。父さんも一度、聞いてみて」と言う。
少しでも空気を和ませたいというシマの気遣いを無視するように、ライアが声を上げて先を催促する。
「話を、」
「ああ、そうだな。ダウナ人はその強すぎる生命力ゆえに、短命だ。事実、二十歳以上の大人は存在していないだろう」
「ああ、居ない」
「人生の前半にその能力を開花させるから、ほとんどの精力をそこで使い切ってしまうんだ。二十歳頃にはみんな、生命力が尽きてしまうんだよ」
ライアは頭を何かの棒で殴られたような衝撃を感じた。
「……まあ、知っての通り、それを鈴果によって、長らえることができるんだが」
「じゃあ、ここにいる多くのダウナ人はどうして……」
身体が小刻みに震えてくる。
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