事実

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事実

「実は昔、鈴果はたくさん取れたんだ。だから、ダウナ人のほとんどに配られていた。ここらにいるダウナ人はみな、その時期にその鈴果を貰って、命拾いしたダウナ人だ。けれどある年、まあ百年ほど前のことだが、雨が全く降らない干ばつの年があった。その年を境にして、鈴樹の実の成りがどんどん悪くなり、ランタン人を賄うのが精一杯となっていった」 「…………」 「そうなった場合、もともとランタン人所有の鈴樹だ、どうなるかは想像できるだろ?」 にわかには信じられない話だ。けれど、ライアはそれを事実と受け入れようとするために、前向きに質問を続けていった。 「……争いは起きなかったのか?」 「起きたよ。だから鈴樹に警備がつき、ダウナ人に与える鈴果は、一つという掟を決めたんだ。秩序と法と教育の力で抑えようとして、知っての通りそれは成功したんだ」 「じゃあ、ダウナ歳時記も……」 「ほとんどが、ランタン人によって作られたものだ。ダウナ人を納得させるよう、子供の教育にも使われた。そうしているうちに実を食べたダウナ人は大陸へと渡り、食べられなかった大人は死に絶え、子供だけが残り、現在のダウナになったってわけだ」 ハトゥが、話し疲れたというようにして、はあと大きく息をする。 「それからは、選ばれた一人に鈴果を食べさせ、生かしている」 「どうしてだ……どうして、そんなことを……」 「ダウナ人の才能を、ランタン人はある研究に活かそうとしているんだ」 「研究? ルキアのか! 何だ、何の研究だ!」 ライアは答えを急かすようにして言った。その声が、荒い息とともに吐き出される。 「あまり、言いたくないが……」 そのハトゥの躊躇する様子でも、ここ大陸の住人が話したがらなかった、その意を察した。 ここに、秘密があるのだ。 ライアは息を呑んだ。 「ランタン人が……鈴果なしで、生き延びる術だよ」 放心した頭に浮かんだのは、そんなことが本当に可能なのか、ということだった。 そう疑問に思うのは、やはり今までランタン人もダウナ人も、鈴樹に命を委ねてきたという経緯があるからだろう。 「ダウナ人の子供達の才能を育て、研究施設に送り込む。今までに送られた優秀な者たちが、ランタン人が鈴果なしで生きられる、そんな方法を模索している」 ハトゥがさらに、一息つく。
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