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初めて揺らぐ
「……けれど、まあ、天才たちのやることだ。ダウナ人が人生の後半も鈴果なしで生きられるような、そんな研究もしているとは思うがな」
「…………」
「そうやって、ランタンの手でダウナの優秀な子供を育てて、」
「育てるだって‼︎」
乱暴にハトゥの言葉を遮った。ライアにとってはそれは大きな間違いであって、受け入れることのできない言葉。
「……悪かった。言葉に語弊があるかもしれない。君たちにとっては、育ててもらった覚えはないだろう。けれど、見守られてはいたはずだ。まあ、こう言うと聞こえは悪いが、いわゆる監視だな。その監視役の代表を、」
ライアはハトゥを見た。その顔に嫌な予感がした。口から出るであろう事実を聞きたくなくて耳を塞ぎたいような気持ちに襲われた。
「……その代表を、フューズが務めている」
目の前が真っ暗になった。
オリエの父親が、自分たちの監視役だったと聞いて、気が遠くなる思いがした。これ以上を聞くと、正気を保つことができなくなる、それくらいの衝撃に襲われている。
ライアは、にわかには信じ難い、その話が事実かどうかの、その根本の部分を疑ってみた。
疑いたかったのだ。
(だが、もしそれが真実で、フューズがダウナ人の監視役だとすると……オリエはいったい何だ?)
こんな風な猜疑心に襲われたのは、初めてだった。オリエを疑うなんてことは、今までに一度たりともなかったのに。オリエは自分たち二人にとって信頼に値する、そんな存在だったというのに。
ライアは混乱した。ぐるぐると頭の中を棒か何かで乱暴にかき混ぜられているように。
(オリエは俺にとって、何だったんだ……)
混乱を含んだ虚ろな目で見ると、シマは申し訳なさそうな、心配そうな顔をして、ライアを見つめている。そして、ハトゥはそんなライアをお前ならどうする? といったように試しているかのような、厳しい視線を寄越している。
ライアは立ち上がり、ふらふらとあてがわれている部屋へと入ると後手にドアを閉め、ベッドの上へとなだれ込んだ。
その拍子に涙が散るのを感じながら、深く深く目を瞑った。
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