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混乱のうちに
「途中で色々と諍いはあったが、俺たち、大陸に住むダウナ人はそれを全て理解した上で、ランタンに協力をしている。まあ、それは簡単に言えばいわゆる見て見ぬ振り、ってやつだがな。それくらい、ランタン人は今、絶滅危惧種となってしまっているんだ。それから、もう一つの問題だが……」
ハトゥが大きく息継ぎをする。
「この大陸に移住したダウナ人はたくさんいるが、ここで生まれた若者はいまだ鈴果を口にしていない。そうなるとな……そのうち、ダウナ人の人口も減少していくだろう。ランタンと同じように」
部屋を出る時、そう背中へとかけられたハトゥの言葉は、すんなりと頭には入ってこなかった。
(ランタン人が、絶滅危惧種……)
あれほど、ランタンとダウナの街を行き来していたにもかかわらず、そんな突拍子もない疑問は一度たりとも持たなかった。
ランタン人が鈴樹の所有権を有している。それだけでランタンの方が優勢だと思い込んでいて、その根幹をこれっぽっちも疑わなかった。
いや、違う。やはりダウナ人は二十歳足らずに死ぬ運命を抱えて生きるというのは紛れもない事実。だから、鈴果が取れなくなっているとしても、今まで通りダウナが劣勢だという事実は覆せないのだ。
混乱する頭。
(……何も考えずに眠りたい。ぐっすりと、眠りたい)
けれど、ここで頭にぽつんと浮かんだことがある。
(じゃあ、どうしてオリエは俺を助けたんだ。どうして、自分の命を俺なんかに与えた)
その自責の念へと繋がっていく想いは一度心に絡まると、当分は離れてくれない。
ライアはその怒りを拳にぶつけた。ベッドに伏せたまま、何度も狂ったように叩く。
(どうして、俺は生きているんだ! 運命のまま、セナとオリエが鈴果を食べればよかったんだ! どうして、俺なんかに寄越しちまったんだ! どうして、どうしてオリエ、どうしてなんだっ!)
ベッドを叩く手を止めて、荒く息を繰り返しながら、ライアは仰向けに転がった。
(俺が生きたって、無駄なだけだ……)
涙がいつまでたっても流れ続けた。
夜が明ける頃、ようやく落ち着きはしたが、それでも眠りはやってこなかった。
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