幼心

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幼心

「ねえ、ライアあ、セナあ、二人ともどこにいるの?」 薄暗くなりかけている空模様が、いつもは綺麗に見えるのに、今のオリエにはどんよりと暗く陰鬱にしか見えない。 一歩一歩、心もとなく差し出す足元。子どもの足では、膝の高さまである草がまとわりついてきて、足取りも覚束ない。 ひやりとする空気が、いつもより肌を刺すような気がして、オリエはもう一度声を上げた。 「ライア! セナ! どこなの? 返事をしてよっ‼︎」 いつもの遊びのかくれんぼとは、まるで雰囲気が違うことを全身の感覚で知る。 二人がこの世界からパッと消えてしまったような気になって、そしてそれが意図的になされているような気がして、オリエは底知れぬ恐怖を感じた。 焦燥感で、いっぱいになる。 「お願い、返事をして! お願い、お願いよう」 オリエの誕生日には、いつもの丘でお祝いをしよう、そう言われて意気揚々と駆けてきたのに、先に出発してすでに到着しているはずの二人の姿が、どこにも見当たらない。 しばらくの間、丘で待ってはみたものの、二人は現れなかった。 (きっと、いつもの森にいるんだわ) 丘を少しだけ東に移動すると見えてくる森は、三人の遊び場でもあった。 大木にロープをかけ、簡易的なブランコも作ってある。 そこには、岩や石などを机や椅子に見立てた、三人の『隠れ家』も作ってある。 オリエは太陽が沈みかけているのを気にしながらも、森へと足を踏み入れた。 歩を進める度に、小さな足に踏まれた小枝がパチリパチリと音を放つ。 いつもなら気にならない音。けれどいまだ自分は独りだと思うと、途端に不安な音となってあちこちで弾け、響き返ってくる。 「二人とも、どこなの……」 いくら叫んでも声が届いていないのかも、そう思うと、オリエの中で何か得体の知れない感情が、増殖していった。 それは、ずぶりと踏み入れた足を決して離さない、底なし沼のようでもあった。 「……ライアあ、セナあ」 涙が零れ落ちた。 常に一緒の三人、その存在。 こんな風に、嫌な予感を抱え一人彷徨いながら、二人を捜したことなど、今までに一度たりともなかったから。 「う、う、二人とも、どこへ、行ったの。どうして、いなくなっちゃったのぉ」 とうとう、足を止めてその場で泣き出した。 大声をあげて、泣いた。 「う、うわあああ、どこなのっ、どこにいるのおっ」
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