32人が本棚に入れています
本棚に追加
/81ページ
失えない
すると、遠くから声がして、直ぐにもライアとセナが息を切らしながら、駆けてきた。
「オリエっ‼︎」
ライアとセナは、オリエを抱きしめると、「ごめんなっ! 俺たち、オリエの誕生日にびっくりさせようって、」
「隠れてたんだ、これを渡そうと思って」
差し出した手の袋からは、小枝や木の実で作った冠がのぞいていた。
「オリエをびっくりさせる場所がなかなか見つからなくて、あちこち探してた。だから、ごめんな」
「うえ、うええ、わああ」
堰を切ったように泣き出したオリエを、二人が揃って抱きしめる。
「ごめん、泣かせるつもりなんて、これっぽっちもなかったのに……ごめん、ごめん、うう」
しゃくりあげるオリエを見て、セナやライアの眼からも涙が零れ落ちた。
「ひ、ひとりはイヤ、イヤだよお」
お互いのすがりつく手が震えていたのを覚えている。
(……これは、誰の夢?)
眼を薄っすらと開けると、真っ白な雲の中。
重たい腕を持ち上げて、頬を伝う途中だった涙を拭うと、そこが雲の中ではなく、真っ白な天井が覆う、いつもの部屋だと分かる。
次第に意識を取り戻し覚醒してくると、今見た夢の内容が鮮明になってくる。
それは、オリエの十二歳の誕生日にあった出来事。
(そうだった。私、この時、二人のことを決して失えないと思ったのだった)
その時味わった恐怖は、オリエから二度と離れていかなかった。
底なし沼に引きずられていくように、ずぶずぶと足が地に届かない、そんな恐怖。
二人がいなくなることを考えるだけで、全身に悪寒が走って、一気に力が抜けていく。
そして。
胸を剣で貫かれたような狂った痛みを、その恐怖は与えてくるのだ。
(そう、私は二人を失えない。これからもずっと、永遠に)
心に決めて、そして実行した。
「何てことをしたんだ! お前は自分がやったことを分かっているのかっ!」
父サンダンの激昂が頭に浮かぶ。
あの日、ライアに鈴果を食べさせた日、何度も勝手をしてごめんなさいと謝っても、頑なに怒りを解こうとしなかった父。
もう許してはもらえまいと思い至った頃、ようやく重い口を開けた父の言葉に耳を疑った。
「セナをルキアへとやる」
そして、そこで父が語ったランタン人とダウナ人の因果関係を、オリエは放心状態で聞いてた。
最初のコメントを投稿しよう!