失えない

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失えない

すると、遠くから声がして、直ぐにもライアとセナが息を切らしながら、駆けてきた。 「オリエっ‼︎」 ライアとセナは、オリエを抱きしめると、「ごめんなっ! 俺たち、オリエの誕生日にびっくりさせようって、」 「隠れてたんだ、これを渡そうと思って」 差し出した手の袋からは、小枝や木の実で作った冠がのぞいていた。 「オリエをびっくりさせる場所がなかなか見つからなくて、あちこち探してた。だから、ごめんな」 「うえ、うええ、わああ」 堰を切ったように泣き出したオリエを、二人が揃って抱きしめる。 「ごめん、泣かせるつもりなんて、これっぽっちもなかったのに……ごめん、ごめん、うう」 しゃくりあげるオリエを見て、セナやライアの眼からも涙が零れ落ちた。 「ひ、ひとりはイヤ、イヤだよお」 お互いのすがりつく手が震えていたのを覚えている。 (……これは、誰の夢?) 眼を薄っすらと開けると、真っ白な雲の中。 重たい腕を持ち上げて、頬を伝う途中だった涙を拭うと、そこが雲の中ではなく、真っ白な天井が覆う、いつもの部屋だと分かる。 次第に意識を取り戻し覚醒してくると、今見た夢の内容が鮮明になってくる。 それは、オリエの十二歳の誕生日にあった出来事。 (そうだった。私、この時、二人のことを決して失えないと思ったのだった) その時味わった恐怖は、オリエから二度と離れていかなかった。 底なし沼に引きずられていくように、ずぶずぶと足が地に届かない、そんな恐怖。 二人がいなくなることを考えるだけで、全身に悪寒が走って、一気に力が抜けていく。 そして。 胸を剣で貫かれたような狂った痛みを、その恐怖は与えてくるのだ。 (そう、私は二人を失えない。これからもずっと、永遠に) 心に決めて、そして実行した。 「何てことをしたんだ! お前は自分がやったことを分かっているのかっ!」 父サンダンの激昂が頭に浮かぶ。 あの日、ライアに鈴果を食べさせた日、何度も勝手をしてごめんなさいと謝っても、頑なに怒りを解こうとしなかった父。 もう許してはもらえまいと思い至った頃、ようやく重い口を開けた父の言葉に耳を疑った。 「セナをルキアへとやる」 そして、そこで父が語ったランタン人とダウナ人の因果関係を、オリエは放心状態で聞いてた。
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