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三人で分け合ってきたもの
(お父さまは、ライアのことを何も知らないのね。彼は、リンドルやハーグの名手だというだけではない。ライアは優しくて強くて素晴らしい人。唯一無二の人なのよ)
オリエはそんな風に時々、ルキアにいるオリエにとっては今ではもう遠い地となってしまったランタンの、そんな父の言葉を思い出したりしている。
そして、それを考える時、いつも心に思うことがある。
(私の選択は、間違っていない)
すると、ぶわっと武者震いのようなものが走り、全身を駆け巡っていく。
(そうよ。間違っていない。生きて欲しかった。ライアには生きて欲しかっただけ。その思いは、今も変わらない。それが、私の自分勝手な押しつけだとしても)
オリエはどこまでも白い白い天井を見つめながら、何度となくそう思った。
このルキアの研究所にある無菌室のドームに来てから、何度同じことを考えただろうか。
その度に、いつかまたライアにも会える日が来るのだろうかと願っては、頬を伝う涙を何度も何度も拭っていた。
✳︎✳︎✳︎
「オリエ、今日の調子はどう?」
セナに訊かれて、答える。
『大丈夫よ、どこも悪くない』
毎日、同じ答えだが、それが一番の色良い報告だと、セナは胸を撫で下ろした。
「昼食は残さずに食べるんだよ。今日はオリエの好きなメニューだって」
『あら、セナは私の好きなものを知っていたかしら?』
オリエの皮肉には苦笑を浮かべるしかない。
オリエの世話係であるツナリからは、今日の昼食がオリエが好きなメニューだとしか、聞いていないからだ。
自分の前にあるモニターにはオリエが映っている。そのモニターがはめ込まれているカウンターの椅子に腰を下ろすと、セナは両腕をそこに乗せてから、そのモニターへと話しかけた。
「オリエが好きなものは、パンナとカクアリのジュース。ダルムのケーキも好きだったね」
そのほとんどのものを、三人で分け合ってきた。
セナは目を細めて、モニターに映るオリエを見つめる。
ふいに愛情に支配された。
オリエの輪郭を指でそっとなぞると、それだけで込み上げてくるものがある。
『……撫ぜてくれたの? ありがとう、私からもあなたにキスを……』
「ダメだっ! オリエ、止めろっ!」
珍しいセナの激昂に、オリエはびくりと身体を震わせたのが、モニター越しでも分かるくらいだった。
身を硬くするそのオリエの様子を見て、セナは一瞬で失った冷静さを取り戻そうと、息を細く吐く。
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