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許せない侮辱
「なあ、セナ」
同じ白衣を着た一つ上の先輩サリヤに声を掛けられ、セナは持っていたファイルから視線だけを上げた。
その態度がサリヤには気に入らなかったらしい。
サリヤはちっと小さく舌打ちをしてから、ぞんざいな態度で持っていたファイルをセナの机に投げつけた。
実を言えば、ダウナでの学生時代、なにかとサリヤからライバル視されていた。気に入らないのだ。
ちょっとしたことで突っかかってきたり、課外授業で足を引っ張られたりして、鬱陶しい存在だった。
だが、ここルキアの研究所に来てからも、色々と文句や嫌味を聞かされて、セナの怒りは頂点に達しようとしていた。
「なんだよ。僕は今、忙しい」
「……セナは働き過ぎだっつーの。休みも潰して仕事してんのって本当になんなの? こっちにしてみたらすっげー迷惑なんだけど。俺らがサボってるみたいに思われるだろ」
セナには、そのねちねちとした言い方が気に入らなかった。
「研究はおまえに任せておけばいいから、オリエはヒマそうで良いなあ」
切れた。
セナは、手元にあったファイルを掴むと立ち上がり、サリヤの横っ面にバシンと打ちつけると、胸ぐらを掴んでから、さらに反対側もはたいた。
「痛ってえ、な、何す、やめ」
何度か往復ビンタを食らわすと、サリヤの頬は真っ赤に染まった。
「おまえ、いい加減にしろよ。僕のことは何を言ってもいいけど、二度とオリエを侮辱するな。もし今度同じことを言ったら、」
セナがファイルを持つ手を振り上げると、サリヤが首をすくめて、手で顔を押さえた。
「わ、分かった、分かったって。すまん、悪かった」
同じく白衣を着た研究員達が、遠巻きに二人の様子を見ている。
ここにいるダウナ人は、優秀であるがゆえに、ケンカや取っ組み合いなどには疎い者が多い。
けれどセナは時々、喧嘩っ早いライアの取っ組み合いを止めたり、加勢したりしていたからか、その優男の風貌からは想像ができないような荒々しい一面も持っていた。
そして、信じられないことだが、そのいざこざに女の子のオリエが加わっていたことを思い出す。
「ちょっと! あんたたちっ、小さい子に手をあげるんじゃないわよっ! あんたたち、ほんとサイテーね! この卑怯者っ」
ライアとセナ、オリエの三人で、下級生を苛めている上級生のグループのもとに乗り込んだことがあった。
元々は、ライアが首を突っ込んだケンカだったが、下級生に対してやっていることが許せないと、オリエも憤慨して参戦した。
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