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鈴果の成分分析研究
その上級生との掴み合いの引っ張り合いの時、オリエの飴色の髪が無残にも千切られて、その場にはらはらと散らばり落ちた。
それを見てカッとなり、逆上した自分。
頭に血が上って、何が何だか分からないうちに、上級生に掴みかかっていた。
「よくも、オリエの髪をっ」
今思えば、もうこの頃からオリエの美しい髪を愛していたに違いない。我慢がならなかった。掴みかかった上級生を殴るつもりで握りこぶしを振り上げたその瞬間。
そこでオリエが叫んだ。
「髪なんてどうでもいい! ボウズでも何でもなってやるわ! それより、あんたたち、もう下級生に手は出さないと約束しなさいっ、しなさいよっ。約束しないなら、あんたからボウズにしてやるっ!」
ボロボロの髪を振り乱して、凄い剣幕で髪を掴み上げてくるオリエに、降参の旗を上げたのが、上級生グループのリーダーだったという。
結果、そんなオリエの勇姿に呆気にとられて突っ立っていたライアと自分は、まるで出番がなかった。
セナは、その事件を思い出して、小さく含み笑いをした。
オリエはいつも真っ直ぐで、そして勇敢だった。
それなのに、ある時はひとりは恐くて嫌だと言って、泣いて縋りついてくる。
可愛くて可愛くて仕方がなかった。
けれど、そういう種類の感情というものは、一緒に過ごす長い歳月の間に、いつの間にか愛情へと変わっていくのだ。
愛している。自分にはオリエしかいない。
それはいつも一緒にいたライアも、例外ではないだろう。
ライアの、オリエを見つめる眼差しがいつもと違う、そう気づいた時に、自分がオリエを同じ眼で見ていることにも気がつくのだ。
サリヤを掴んでいた手を乱暴に離し、セナは自分のデスクに戻ってから、追加された手元のファイルを見る。
愛する人を失いたくない。
「急がないといけないんだ」
セナがこの研究所に到着した時にはもう、鈴果の成分解析は終了していた。今はそれと同じ成分を構成する物質を見つけ出す研究がなされている。
だが、セナは落胆した。
それは、地方から無作為に送られてくる草花や食物、昆虫、その他の物質を片っ端から成分解析していくのだが、鈴果の成分表には似て非なるものばかりだったからだ。
セナはここへ来てから、ずっとその作業に没頭している。
それを続けることが、治療法の構築の早道だということも分かっている。
(結果、ライアが大陸へと行ってくれたのは、正解だったな)
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