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幼馴染、それぞれの運命
「待てって」
息を整えようと、はあはあと荒い呼吸を繰り返す。ライアはそれでもオリエの腕を離さない。
彼の前髪は汗でべっとりと額に張りつき、黒髪が水分を含み、艶を放っている。
オリエの観念したというような表情を確認して初めて、掴んでいた手をようやく離した。彼は手持ち無沙汰になってしまったその手で、その艶のある前髪を掻き上げた。
「オリエ、もう勘弁してくれ。俺たちが悪かった。謝るから、な」
そして、ふうふうと同じように息を吐きながら、セナが追いついてくる。
栗色の癖っ毛があちこちに跳ね上がるのをそのままにし、セナは首筋からだらだらと汗を垂らしている。彼は元々、ライアのように体力が有り余っているというわけではない。立ち止まって両膝の上に両手をつくと、今にも吐き戻しそうな体勢で、背中で大きく息を重ねた。
「ごめん、はあっはあっ、許してオリエ、ほんとごめん、はあっ」
息継ぎをしながらなんとか言葉を出して謝罪すると、ライアとセナはオリエの返事を待った。
「…………」
オリエンティンとライアとセナの三人は、幼馴染だった。
決して家が近いとは言えないが、幼い頃より三人の家からは同じ距離であるこの丘の上でいつも待ち合わせをし、一緒に駆け回って遊んだり、弁当やおやつを分け合って食べたりしていた。
男二人と女一人の珍しい組み合わせだったが、一緒になって遊ぶ時にはウマが合い、イタズラを仕掛ける時にはぴたりと息が合う、仲の良い三人だ。
「オリエがオニだ。やーい、こっちだこっちだこっちだぞー!」
「待ってよ、待って!」
「ライア、そんな全力で逃げたら、オリエが捕まえられないだろっ」
「なに言ってんだ。オニごっこなんだから、当たり前だろ」
「いいわ! 二人とも絶対に捕まえてやるんだから!」
オリエはその勝気な瞳で、ライアはいたずらっ子のような表情で、セナは優しさに満ちた笑顔で、この丘を駆けずり回っていた。
三人はただの子どもだったし、ただの幼馴染だった。
けれど、決定的に違うことがある。それはオリエがランタンの出身、そしてライアとセナは、この丘から望むことができるもう一つの村、ダウナの出身であることだ。
満足のいくまで遊んだのち、口火を切るのはいつもセナだった。
「もうそろそろ帰ろう」
「セナがそう言うなら」
「ランタンへの道も、陽が落ちると真っ暗になっちまうからな」
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