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自分の命より大切なものを
収穫した情報をもとに、何か手がかりになるような物を送ってくれるはずだ。
けれど、今のところライアからの便りはまだ一度も来ていない。
どこにいるか、居場所も分からないライアへ、セナ側から連絡をとることは不可能だ。
ダウナを共に出立して、すでに半年近くが経過している。
「ライア、頼む。時間がないんだ。オリエを助けてくれ」
祈りにも似た願いを一日に何度も何度も、口にする。
けれど直ぐにも、セナはファイルへと眼を遣って、ページをめくっていった。
✳︎✳︎✳︎
「ライア、あくまで噂だからな。もしかしたら、空振りかもしれんぞ」
ハトゥの申し訳なさそうな声が、背中にかかる。
ライアは、荷物の紐のゆるみを確認すると、その背中へと担いでから姿勢を直した。
「それは、構わない」
「ライア、無理しないでね。困ったことがあったら、いつでも帰ってきて」
シマの声は震えていて、少し涙声を含んでいるようだった。
「……世話になったな」
頭を下げてから、最後に小さな鞄を斜めにかけると、ライアは歩き出した。
一度だけ、振り返って手を上げる。
シマが両手で顔を覆って泣いている。後ろ髪を引かれる思いだったが、少しの遅れをとることはオリエの命へと直結するような気がして、ライアの心は急いた。
数日前のことだった。
ハトゥの情報によると、大陸の中央部から南へ少し外れた小さな集落に、庭中に植物を育てて何やら研究まがいのことをしている男が住んでいると分かった。
971年にダウナを出立して大陸を目指したダウナ人、もしくはその子孫かもしれないと、ライアは直感的に考えた。
「ただの変わりもんかも知れないぞ」
「でも、可能性はあるだろ」
「ライア、どうしても行かないといけないの?」
不安そうな表情を見せていたシマが、そっとライアの前へと水の入ったグラスを置いた。
「ああ。どちらにせよ、ここを出て手がかりを探さなくちゃいけないしな」
「そんなに、その幼馴染が大切なの?」
少しだけ強い口調になってしまったことを気にして、シマが父親であるハトゥの方へちらと視線を遣る。
ハトゥは、グラスを口元につけて、素知らぬ顔をしている。
ライアは苦笑してから言った。
「ああ、そうだな」
机に描かれている文様を指でなぞる。
「俺の、命だ」
言ってから、少し大袈裟過ぎたかと思い、再度苦笑した。が、それはまぎれもない真実だ、と強く思うのだ。
それからは誰も何も言わなかった。
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