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急く気持ち
ライアは立ち上がり、部屋へと戻って荷物を片し始めた。途中にシマが部屋へと入ってきて、これ、と何かの袋を差し出してくる。
「役に立たないかもしれないけど」
受け取って袋の中を見ると、見慣れた木の実がたくさん入っていた。そのほとんどが、家の裏手にある森でとれるものだ。
ライアはすでに、この森に毎日のように入って歩き回り、木の実や木の葉を採取し、袋に入れて持ち帰っている。
ある程度の種類や量が集まったら、ルキアに人をやって届けるつもりでいた。
「シマ、ありがとう。世話になったな」
ライアは窓辺に近づくと、そこに置いてあったリンドルを取って、シマへと渡した。
「お礼に、」
「だめよ、こんな大事なもの」
「弾き方は君に教えただろ。練習して、もっとうまくなってくれ」
いたずらな顔をして、シマを笑わせる。
「たくさん練習して、見返してやるんだから」
シマはリンドルを受け取って、その大きな瞳から涙を零した。そのシマの泣き顔を思い出すだけで、それがオリエの泣き顔と重なった。
ライアは身体を揺らして背負った荷物の位置を直すと、真っ直ぐに伸びる一本道の先を目指して前を向く。
一歩一歩踏みしめるのは、早くオリエを救う手がかりをと心が急くのを抑えるためだ。
ハトゥによれば道中、商人と売買の取引がある牧場があるので、そこでロキロキをもらい受けるという算段をつけている。
その為の金は、シマの知り合いの鍛冶屋で力仕事を手伝ってもらったものを取ってある。
(急がないととはわかってはいるが……)
息が上がってくる。
(落ち着かないと体力が保たねえぞ)
そんなライアの気持ちとは裏腹に、心臓はその脈を早めていくばかりだった。
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