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旅の途中で
乗っていたロキロキがそわそわとし始めた。ライアは溜め息をつきながら、渋々降りる。相棒の首元をぽんぽんと叩く。
「おまえなあ、ちょっと弱すぎだぞ。もう少し、体力つけろよ」
諦めてロキロキの首につけた紐を手首に巻きつけて引っ張った。
「それとも俺が重すぎるのか?」
その言葉に応えるようにして、ロキロキが鼻息を吹きながら首をブルブルと縦に振った。
「おまえ、何気に失礼だな」
紐を引っ張りながら半日ほど歩くと、ようやく集落らしきものが目に入ってくる。
「やっと、着いたか」
ぽつんぽつんとある家を覗き込みながら、ライアは大きな庭のありそうな家を探して歩き回った。
すると、道端に少年が座り込んでいる。地面をじっと見ているので、何かと思い、ライアは後ろから覗き込んだ。
「なんだ、ドゥーレか。触ると臭いぞ」
どこにでもいる一般的な昆虫の一種で、列を作って行進し、辺り一面に巣を張り巡らせていく。
焦げ茶色の身体からは、独特の強烈な臭いを発するので、ハトゥの家でも特にシマが敬遠していた。
その言葉で、少年が振り向いて、ライアを見上げた。
目が合った。その視線に少年の賢さを感じ、ライアはちょうどいいと思い、訊いた。
「ここら辺で、庭にたくさんの植物を育てている家って、知らねえか?」
少年は眉間にしわを寄せると、直ぐに顔を元に戻してしまった。旅人の格好で訊ねると、だいたいがこんなような反応。訝しげに見るのが大半だ。
少年の警戒心を見て、ライアは返事を期待できないと思うや否や、踵を返してロキロキを引っ張った。
少年はすくっと立ち上がり、ライアを追い越して道の先へと走っていってしまった。
(怪しまれた、か)
少年が走り去った方へと、ロキロキを引っ張る。そのロキロキが手綱をぐいっと引っ張り、ライアになにかを訴えてきた。
昼飯の時間だ。
「まったく……労働もしていないのに、飯の催促とは。呆れてものも言えねえなあ」
鞄から干し芋を出して、小さく千切ってからロキロキの口に含む。口をもくもく動かして咀嚼している。のんびり屋だ。
「やっと元気が出たか? そうだろうなあ、まああと一息だ。頑張ってくれ。っていうか、俺はいつになったらお前の背中に乗れるんだ?」
干し芋を自分の口にも放り込んでから、ライアは肩をすくめながら、やれやれと小さく言うと、そのまま歩いていく。
少年が行ったであろう道をひたすら歩いていくと、大きな門のある一軒の家に辿り着いた。
後ろを振り返ると、夕日が雲で濁って、地平線へと沈む直前だった。
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