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一晩の宿
ライアは、今日はここまでと当たりをつけると、ロキロキを近くの大木へと繋ぎ、大きな門をくぐって庭へと足を踏み入れた。
そこそこ広さのある庭だが、草はほとんど枯れていて、辺り一面真っ茶色の無残な様子だ。
(この家ではないようだが……泊まらせてもらえないだろうか)
「誰かいないか?」
ドアをドンドンと何度か叩いてみる。
「誰かいないのか?」
ドアの横の窓から覗くと、ランプの灯りが見えて、在宅だということが分かる。
ライアはもう一度、ドアを打った。
すると、ドアが開いて、中から男性が出てきた。
背は高く、無精ひげにボサボサの髪。
その男の後ろで隠れるようにして立っているのは、先ほど道で見かけた少年だった。
「なんの用だ」
ぶっきらぼうな物言いに、ライアは少し気後れした。が、右手に持っていた干し芋を吊るした紐を掲げて、「これで一晩、泊めてもらいたいのだが」と言った。
男は、目を細めるようにして、ライアが持っている干し芋を見る。それに納得したのか、ドアを開けて中へと促した。
「助かるよ。そこの木に、ロキロキをくくりつけてあるが、いいか?」
男は、あごを打つと、ライアが差し出した干し芋を受け取って、奥の部屋へと入っていってしまった。
少年が、ライアに近づいてきて、「ねえ、あれは何の芋なの?」と訊いてくる。
「サルダ芋だよ。大陸原産だと聞いたが、ここら辺では手に入らないのか?」
「聞いたことない。俺はロイ。あれは、父ちゃんのソルベだよ」
「俺は、ライアだ。泊めてくれて、ありがとうな」
ロイは昼間の態度とはうって変わって、ライアにニコッと愛想よく笑いかけると、ソルベが入っていった部屋のドアを開けた。
「父ちゃん、それサルダ芋ってやつだって。大陸原産だってさ」
おお、と、くぐもった声が聞こえただけで、直ぐにも沈黙の空気。
そんなに干し芋が珍しいのか、などと怪訝に思いながら、ライアは荷物を下ろして上着を脱いだ。
「そこ、座っていいよ」
勧められた椅子に腰掛けると、どっと疲れが襲ってくる。
はあ、と天井に顔を向けて、ライアは目を瞑った。
「食べる?」
その声に顔を戻して差し出された皿を見ると、何やら紫色の葉っぱが巻いて丸くなっている野菜を煮た料理が置いてある。
「こんな野菜は見たことないが、」
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