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隔離
「大規模なドーム型の隔離施設を、研究と並行して作っているってことだ」
「……隔離施設?」
「まあ、そこに入ってりゃあ、病気にもならねえってことだよな」
「それは本当か⁉︎ 」
「随分前に聞いた話だ。その建設が間に合ってりゃあって、話だがな」
ライアは胸の辺りにある重苦しさが、少しだけ和らいだような気がして、細く息を吐いた。
「……一刻も早く、鈴果の代わりを見つけなければ」
そう呟くライアを、親子はただただ見つめるだけだった。
✳︎✳︎✳︎
ソルベの屋敷の周りを歩いてみると、自然が揃ったなかなかの良い土地だということが分かった。
肥沃な土地には、たくさんの畑で様々な種類の野菜が所狭しと栽培されている。
ロイの話によると、屋敷の庭でも珍しい植物や野菜の種が手に入れば、それを植え育てて、研究に使っているらしい。
庭で栽培した植物のうち、かなりの量と種類のサンプルをルキアへと送ったが、どれも空振りで、現在はそれも数種を残して、土地を休ませているということだった。
屋敷の西側には奥深い森があり、その森を抜けるだけでも数日は掛かるという。
ライアは軽い荷を持って、その森を彷徨い歩いた。
けれど、ソルベが自慢していた通り、この森の植物の実や草花、枯れ木などの採取はほぼ終わっているようで、何の収穫も得られずに戻ったライアは、次には南側の川の方へと足を運んだ。
川沿いを歩きながら、目に留まった石を拾い上げる。
「これは……同じものがソルベの部屋にもあったな」
石を川へと放る。
夕日の光が水面をきらきらと輝かせる時刻になり、そろそろ帰るかと算段をつけてから、踵を返す。
もと来た川沿いを歩いているうちに、数歩先で何かがチカリと光って、ライアの気を引いた。
(何だ、)
近づいていって、そこら辺りを見渡すと、薄いオレンジ色のガラス片が落ちていた。
腰を折って拾い上げて、陽に掲げると、それは同じ色合いの夕日の光を吸って、その透明さを増していく。
その色は、オリエのスカートの色を思い出させた。
ライアは、含み笑いをすると、ベルトにくくりつけてある袋の中へとそっと忍ばした。
その日は何の収穫もなかったが、懐にそのガラス片が入っていると思うと、それはライアの心を安らぐように撫でてくれた。
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