隔離

1/1

32人が本棚に入れています
本棚に追加
/81ページ

隔離

「大規模なドーム型の隔離施設を、研究と並行して作っているってことだ」 「……隔離施設?」 「まあ、そこに入ってりゃあ、病気にもならねえってことだよな」 「それは本当か⁉︎ 」 「随分前に聞いた話だ。その建設が間に合ってりゃあって、話だがな」 ライアは胸の辺りにある重苦しさが、少しだけ和らいだような気がして、細く息を吐いた。 「……一刻も早く、鈴果の代わりを見つけなければ」 そう呟くライアを、親子はただただ見つめるだけだった。 ✳︎✳︎✳︎ ソルベの屋敷の周りを歩いてみると、自然が揃ったなかなかの良い土地だということが分かった。 肥沃な土地には、たくさんの畑で様々な種類の野菜が所狭しと栽培されている。 ロイの話によると、屋敷の庭でも珍しい植物や野菜の種が手に入れば、それを植え育てて、研究に使っているらしい。 庭で栽培した植物のうち、かなりの量と種類のサンプルをルキアへと送ったが、どれも空振りで、現在はそれも数種を残して、土地を休ませているということだった。 屋敷の西側には奥深い森があり、その森を抜けるだけでも数日は掛かるという。 ライアは軽い荷を持って、その森を彷徨い歩いた。 けれど、ソルベが自慢していた通り、この森の植物の実や草花、枯れ木などの採取はほぼ終わっているようで、何の収穫も得られずに戻ったライアは、次には南側の川の方へと足を運んだ。 川沿いを歩きながら、目に留まった石を拾い上げる。 「これは……同じものがソルベの部屋にもあったな」 石を川へと放る。 夕日の光が水面をきらきらと輝かせる時刻になり、そろそろ帰るかと算段をつけてから、踵を返す。 もと来た川沿いを歩いているうちに、数歩先で何かがチカリと光って、ライアの気を引いた。 (何だ、) 近づいていって、そこら辺りを見渡すと、薄いオレンジ色のガラス片が落ちていた。 腰を折って拾い上げて、陽に掲げると、それは同じ色合いの夕日の光を吸って、その透明さを増していく。 その色は、オリエのスカートの色を思い出させた。 ライアは、含み笑いをすると、ベルトにくくりつけてある袋の中へとそっと忍ばした。 その日は何の収穫もなかったが、懐にそのガラス片が入っていると思うと、それはライアの心を安らぐように撫でてくれた。
/81ページ

最初のコメントを投稿しよう!

32人が本棚に入れています
本棚に追加