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いちるの望み
(この辺りのものはもう、ソルベがルキアへと届けている。他を回らなくてはいけない)
数日経ったらここを出よう、そう決めてから、ライアは連れてきたロキロキに餌を与えるため、赤い実をたわわにつけている枝葉を、幾本か手折り始めた。
夕日が落ち、薄暗い雲が空の裾野へと伸びている。
ロキロキから降りて、いつもの大木へと繋いでから、庭へと入っていく。
すでにロイが作り終えているのであろう、タンというスープの良い香りが漂ってきた。
中に入れる具は、その日その日で違っているが、基本スープの味は変わらないらしい。
身体も温まるし、腹持ちがいいことから、ライアはロイに作り方を教わりもしていた。
家へと入ってから、ロイと共に食卓を囲んだが、今夜もソルベは不在だった。
いまだ、ライアが持参したサルダ芋の分析に没頭しているらしい。
「成分を分析するにも、相当な時間がかかるんだな」
ライアがスプーンを口へと運びながら、前に座ったロイに話しかけた。
「まあね、一、二週間はあんな感じだよ。あとで、食事を運ばなきゃ」
「お前も大変だな、」
常々思っていた疑問を口にする。
「ロイ、お前の母親はどうした?」
ロイが不意に顔を上げたので、視線がぶつかり、気まずい思いをする。
その表情から、遠慮すべき質問だったことを知り、ライアは視線を下げた。
「すまん、答えたくなかったら、答えなくていい」
「別にいいよ。死んだんだ、俺が小さい頃に」
「そうか、」
小さく答えると、ロイが俯く。
「母ちゃんもあんたの友達と一緒で、病気だったんだ。だから、父ちゃんは母ちゃんの病気を治そうとして、いろんなものを調べた。でも、治らなかったんだ。だから、あんたの友達の病気は治るといいなって思うよ」
(病気、というわけでもないんだが、)
ライアは、小さく苦笑した。
「ありがとな」
ロイの言葉は、心に染み込んでくるようだった。
久しぶりに、人に救われたような気がして、それなら自分もロイのためにと、言葉を寄せた。
「ソルベももちろんだが、ロイ、お前も頑張ったな」
そう言うと、ロイが顔を上げないまま、頷いた。
ロイの前髪が震えるのを見ながら、ライアはスープを口に運んだ。
✳︎✳︎✳︎
「オリエ、ライアから手紙が届いたよ」
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