いちるの望み

1/1

32人が本棚に入れています
本棚に追加
/81ページ

いちるの望み

(この辺りのものはもう、ソルベがルキアへと届けている。他を回らなくてはいけない) 数日経ったらここを出よう、そう決めてから、ライアは連れてきたロキロキに餌を与えるため、赤い実をたわわにつけている枝葉を、幾本か手折り始めた。 夕日が落ち、薄暗い雲が空の裾野へと伸びている。 ロキロキから降りて、いつもの大木へと繋いでから、庭へと入っていく。 すでにロイが作り終えているのであろう、タンというスープの良い香りが漂ってきた。 中に入れる具は、その日その日で違っているが、基本スープの味は変わらないらしい。 身体も温まるし、腹持ちがいいことから、ライアはロイに作り方を教わりもしていた。 家へと入ってから、ロイと共に食卓を囲んだが、今夜もソルベは不在だった。 いまだ、ライアが持参したサルダ芋の分析に没頭しているらしい。 「成分を分析するにも、相当な時間がかかるんだな」 ライアがスプーンを口へと運びながら、前に座ったロイに話しかけた。 「まあね、一、二週間はあんな感じだよ。あとで、食事を運ばなきゃ」 「お前も大変だな、」 常々思っていた疑問を口にする。 「ロイ、お前の母親はどうした?」 ロイが不意に顔を上げたので、視線がぶつかり、気まずい思いをする。 その表情から、遠慮すべき質問だったことを知り、ライアは視線を下げた。 「すまん、答えたくなかったら、答えなくていい」 「別にいいよ。死んだんだ、俺が小さい頃に」 「そうか、」 小さく答えると、ロイが俯く。 「母ちゃんもあんたの友達と一緒で、病気だったんだ。だから、父ちゃんは母ちゃんの病気を治そうとして、いろんなものを調べた。でも、治らなかったんだ。だから、あんたの友達の病気は治るといいなって思うよ」 (病気、というわけでもないんだが、) ライアは、小さく苦笑した。 「ありがとな」 ロイの言葉は、心に染み込んでくるようだった。 久しぶりに、人に救われたような気がして、それなら自分もロイのためにと、言葉を寄せた。 「ソルベももちろんだが、ロイ、お前も頑張ったな」 そう言うと、ロイが顔を上げないまま、頷いた。 ロイの前髪が震えるのを見ながら、ライアはスープを口に運んだ。 ✳︎✳︎✳︎ 「オリエ、ライアから手紙が届いたよ」
/81ページ

最初のコメントを投稿しよう!

32人が本棚に入れています
本棚に追加