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見せられない
「え、あ、うん。以上だよ。短い手紙だね、ライアらしいと言えばそうなんだけど……。だからって、もう少しくらい近況とか書いてくれてもいいのにね」
『…………』
オリエの落胆ぶりが、モニター越しに痛いほど伝わってきて、セナを苦しめる。
セナは何とか、取り繕うようにと話しかけた。
「ライアも忙しくしてるのかな。あいつ、おっちょこちょいなところがあるから、川に落ちてなけりゃいいけど」
『私宛には、何もない?』
どきり、とした。
隠そうとする気持ちを、見透かされているような気がして。
「……無いよ。でも、僕宛っていうより、僕とオリエ、二人に宛ててるっていうか、」
『うん、そうだね。元気なら、それでいいの。それだけでも、知りたかったから、嬉しい』
モニター越しの表情は、笑顔だった。
「ああ。そうだね。元気なら、それでいい」
セナも何とか、笑顔を返した。
『見せてくれる?』
一瞬、時が止まった。え、と思い、セナは手紙を見た。
知らず知らずに指に力が入っていたのか、所々折れ曲がってしまっている。
「この、……手紙を?」
『うん、久しぶりにライアの字を見てみたいの。ライアってば、わざと字を汚く書くのよね。それが本当に汚くって、私いつも大笑いしちゃう』
「でも、」
セナは不自然にならないようにと、頭で考えながら慎重に言葉を並べていった。
「何かに汚染されているかもしれないから、これをドームの中に持っていくわけにはいかないんだ」
『調べてからじゃないと、ダメ?』
「そういうことだよ」
『分かったわ。じゃあ、調べて大丈夫だったら、見せて欲しいの』
「ああ、それなら……いいよ。なるべく、早く確認する」
『ありがとう』
ライアは、早くその場を離れたかった。これ以上は、耐えられない。
「じゃあ、夜ごはんもしっかり食べるんだよ」
いつもの挨拶を手短に済ますと、モニターの電源を落とす。
手紙は、握った手の中で、ぐしゃりとその姿を歪めている。
「こんなもの、オリエに読ませられるかっ」
ぐぐっと握り込まれているのは、手紙ではなく、自分の心臓のような気がして、セナは吐き気を覚えた。
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