二つの村

1/1
33人が本棚に入れています
本棚に追加
/81ページ

二つの村

オリエはいつも帰るときにはランタンへと続く道を下りていった。広大な領地、民家は点々としているように見えるが村の人口は多い。その村を束ねているのがオリエの父、フューズと呼ばれる最高位の役職につく、サンダンだ。 「そうだな。オリエの父さんに怒られると恐いからな」 「オリエのお父さんなんて言ったらそれこそ怒られるよ。フューズって呼ばなくちゃ」 セナが苦笑いを浮かべながら、そう言った。 そして一方、ライアとセナはダウナへと続く道を駆け下りる。 ただ。このダウナという村には驚くべき特徴があった。それは『二十歳以上の成人が一人として存在しない』ということだ。子どもたちが家に帰っても、親が出迎えることのない家庭ばかりが点在している。親たちはみな、若くして子をなすと、すぐに死んでいってしまうからだ。 大人がひとりとして存在しない街、ダウナ。 もちろん人口も少ないので当然、村の規模も小さく、緑豊かなランタンの地の一画にひっそりと包み込まれるようにして存在しているのみ。 寿命の短さによる弊害は多い。村の長は常に若く、すぐに交代することになるので、住民投票が短いスパンでやたらと回ってくる。そんなこともあってか、村としての若い行政の危うさに、オリエの父サンダンが時折、ダウナの自治の手助けをしている。 「……死ぬなんて言葉、二度と口にしないで」 オリエの、怒りを抑えた声。涙で濡れた瞳。ライアとセナは、はっと意識を戻した。 「オリエ、ごめんね」 二つの村を望むこの丘で、三人は色々なことを語り合ってきた。それは時々、口論にまで発展するものだったが、三人は諍いを恐れず、果敢に論じ合ってきた。 信頼があった。また、お互いを傷つけまいとしていた。三人はいつも相手を想い合う。そこに固く結ばれている絆の存在を、強く強く感じていた。 ただ今回だけは違った。 「死ぬだなんて……言わないで」 否定はしたものの、その言葉にある種の虚しさを含んでしまっていることを、オリエは自分でもどうすることもできない。 オリエはしばしば『運命』の意味を考えてみた。『死』というものが人の運命に組み込まれているのは、万物の理。 自分だっていつかは死ぬのだと、巡り考えては、いつもそこに辿り着く。そこから俯瞰すれば、幼馴染二人が言っていることは正しく、間違っていないのだと理解できる。
/81ページ

最初のコメントを投稿しよう!