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揺れる
『オリエ』
懐かしい字が踊る。
『俺が大陸に来て一年近くなる。君は元気にしているだろうか。俺は色々な場所を巡っては、ランタン人の免疫に代わる可能性があるものを探している。そして、俺が送る物の中から、必ずセナがそれを見つけてくれるはずだ。俺はそう信じている』
胸が熱くなって、涙が込み上げてくる。
『だから、オリエはこれからも生きられる。何も心配は要らない、俺とセナを信じるんだ。オリエに貰った命だから、俺は君のために生きる。君の元に何かしらを送り続ける。だから、安心してくれ。必ず、治療法が見つかるはずだ』
ライアの、慰めよう、安心させようという思いがひしひしと伝わってくる。
涙で曇って、その懐かしく愛しい字が見えなくなる。
腕で拭って、続きを読んだ。
『オリエ、君に報告したいことがある』
ぐ、と喉が鳴った。
『俺はこっちで大陸の女性と結婚した。もうすぐ、子供も産まれるんだ。だから、オリエは安心して、』
さらに文面がぐにゃりと曲がっていく。
『安心して、セナと結婚してくれ』
苦しい。手紙を持つ指の力が抜けていくのを感じた。いや、指だけではない。全身の。
『セナなら、君を幸せにできる。それは俺が保証する。君は、幸せになってくれ』
いつのまにかライアからの手紙が手から離れて、はらりと足元に落ちた。
涙は流れ続けている。
けれど、この涙はいつもの涙とは、少し違っているような気がした。
✳︎✳︎✳︎
「見せなかった方がよかったんじゃないか?」
頬をファイルでこっぴどくはたかれてから、すっかり大人しくなったサリヤが、遠慮がちに言う。
「なにかあった?」
セナが眉間にしわを寄せたまま、顔を上げる。
その険しい顔を見て気後れし、サリヤは少し後ずさった。が、データの紙をずいっと出すと、思い切るようにして言った。
「食欲も落ちてるし、血圧も低い。どうして、手紙を見せたんだ。こんなことになるなら、ニセ物でも見せた方がまだマシだったな」
受け取ったデータに目を通しながら、言う。
「ライアの字は真似できないよ。オリエにはすぐにバレる」
「なんか、可哀想だな。せっかく、命をくれてやったのに、恋人は他の女と結婚、か」
ぎろりとセナに睨まれて、二、三歩後ずさった。気まずい空気にそそくさとサリヤは立ち去っていった。
「……そんなの、嘘に決まってるだろ」
憎らしげに、その後ろ姿を眼で追う。
(ライア、君は何がしたいんだ)
「こんなことをしても、オリエを欺くことなんてできないのに」
それがライアのオリエを想うゆえの嘘だと分かっているのに、動揺してしまう自分を可笑しく思い、自嘲気味に笑った。
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