静かなる怒り

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静かなる怒り

「手紙に付着していた砂が?」 サリヤが、ぐるりと机を回り込んできてから、大きな機械に備えつけられているパネルに顔を近づける。 「うん、ざらっとしていたから、気にも止めずに手ではらってしまったんだ。後でもしかしたらと気づいてかき集めたけど、少量だったから結局はデータ不足だった」 セナが、データの定期報告書をサリヤへと渡しながら言う。 「手紙をオリエに見せる前の検査で、分かったのか?」 「そう。一応、細菌などがついてないか事前検査するよね。それで、薄っすらと水溶性の反応が出たから、それで慌ててかき集めたんだ。でももっと、サンプルの量が必要だ。今、ツルマンに人をやっているよ」 「もし、それが当たりだったら……」 「次には、臨床に持ち込める。でも、まさか砂の類にその可能性があるなんて思いも寄らなかった。砂なんて普通だったら食べないからね」 「そうだな。まだ信じられない」 「でも確かに、大陸の南に土を食べる部族がいるということを、何かの本で読んだことがある。それは、身体がその土の成分のなにかを欲しているのが理由なんじゃないかという考察が載っていたけれど……サリヤも疲れた時とかに、甘いクリマエが無性に食べたくなる時があるもんな」 「そうだ、言われてみれば、そういうことがあるなあ」 サリヤが、あごに手をやって、思い当たる、というような顔をする。 「そういうのと同じなのかもしれないね」 「でも、ツルマンなら、往復三月ほどはかかるぞ」 遠くなりそうな意識を戻すようにして、セナは書類の束を整頓し始めた。 「ああ、分かっている。だから、他の物質と並行してやっていくよ。君はBグループの検体の続きをやってくれ。僕は、Cグループをやる」 「何気に傷つくなあ、俺の方が先輩なんだけど。っと、待て待て、Cはこの前の研究会議で、後回しにするって……」 セナは書類の束を、棚に仕舞い終えると、次には見るからに重そうな辞書を同じ棚から引き抜いて、机へと広げる。 この辞書には、膨大な量の研究対象物の成分表が載っている。 それは、一刻も早く治療法を見つけたい一心のセナをイライラとさせる、美しく整った成分表だった。 (こんな綺麗に表を作ることに、時間をかけて何になるって言うんだ。そんな時間はないっていうのに……) いつもそう思っては、心の中で批判する。
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