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恋慕の情
「オリエ、それね。ライアが持っているものと同じだそうだよ」
三月ぎりぎりで、使いの者が持ち帰ったのは、該当場所の砂と、リストの検査対象物、あとは淡いオレンジ色のガラス片だった。
オリエが手のひらに乗せている、そのガラス片の色合いまでは、モニターでは明瞭ではない。
けれど、それを渡された時、オリエの巻き布の色だと一目で分かった。
(ライア、君はどこまで……)
『綺麗ね、キラキラ光っているわ』
やっと、オリエの笑う顔が見られて、セナは心底ほっとした。
けれど、それと同時に感じたのは、息苦しさだった。
(これが君の巻き布の色だと知ったら、君はどんな顔をするんだろうか)
正反対の性質の公式を二つ、同時に証明しろと無理やり持たされたような、そんな感覚。
ここのところ、オリエの体調はすぐれない。
変なことを言って、オリエの調子を崩したくない、そう思っていると、
『ふふ、これ、私の巻き布の色だわ』
その言葉で、頭の中の公式は吹っ飛んだ。
「お、オリエ、」
言葉が出てこない。
動揺と焦りで、身体から力が抜けていくようだった。
『結婚してもまだ、持っていてくれるかしら?』
「ライアは結婚なんかしてない! あんなのは嘘だって、分かっているだろ? あいつは絶対にオリエを裏切ったりしない、ライアは君を、」
うっかりと口を滑らせるとは、こういうことだろうか。
セナはモニターがゆらりと揺れるのを感じた。
(まさか、僕は……泣いているのか?)
セナは自分を責めるように、思った。
一体、これは何の涙だ、と。
水滴が頬を。
空から落ちる星のような軌跡を描いて、走っていく。
一度は呑み込んだはずの言葉を、喉の奥から絞り出す。
「ライアは、君を……愛しているんだ」
流れる涙をそのままにして。
(けれど、オリエ。僕も……僕だって、君を……)
心に。
湧き上がってきては自分を苦しめる、オリエに対する恋慕の情。
それこそ、口から零れ落ちそうだった。
けれど、ここで零してしまったら、ここには居ないライアを裏切ることになるような気がして。
自分に言い聞かせて、自制心を手繰り寄せた。
時々、思う。
オリエの側にいることで、その愛情は増すばかりだ。
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