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悪い予兆
残り僅かであった友情や家族愛などの類の情でさえ、ひとつ残らず恋情へと形を変えていく。
それでも。
こんなにもオリエの近くにいる自分なのに、そんな自分の変化を、指をくわえて見ているしかできないのだ。
遠く離れているライアは、オリエなしで、一体どうやって生きているのだろう。
それを考える度に、胸が潰れそうになる。
『分かってるわ。だって私も、愛しているもの』
どきり、とした。
オリエのぶれることのない、真っ直ぐな答え。
きっと、自分がそう伝えても、同じ答えが返ってくる。
分かってはいるが、ぐらりと揺れた。
(どうして、こんな話をしてしまったのか)
自分に問う。
再度、口から溢れそうになる言葉を、右手の甲でぐっと潰すと、セナは何も言わずにその場を離れた。
✳︎✳︎✳︎
セナがモニターの後ろへとその姿を消すまで、オリエは自分の右腕を反対の左手で、ぐっと掴んで押さえていた。
モニターの不明瞭さがどれぐらいのものか、オリエには分からなかったが、それを鑑みて、オリエはなるべく袖の長い服を着るようにしていた。
そしてその上から、念のためと、さらに薄紫色の一枚布を羽織っていた。
『オリエ、厚着だね。寒いのか?』
最初、セナにそう聞かれた時、どきりとした。
「ううん、そうじゃないの。ちょっと、日差しがきつく感じて」
無菌ドームの一角には、大人が両手を広げたくらいの大きさのガラス窓が三枚あって、陰鬱になりかねない室内を明るく照らしている。
窓からは、ルキアから大陸へと続く砂地が見渡せる。
いつの間にか、オリエはそこでライアが帰ってくる姿を想像したりしていた。
地平線にぽつりと人の姿を見つけては、こちらへと向かって歩いてくるのをただひたすらに待つ。
それが、ルキアと大陸を往復する使いの者の姿だと分かると、たとえ彼らが自分を助けてくれる何かしらを持っていたとしても、オリエの心は酷く落胆した。
(ライア、今どこにいるの?)
心細くなって、さらに窓辺に寄る。
日の光が心地よくて、オリエはよくその窓際で、そのまま丸くなって眠ったりしていた。
ある日、いつもそうして何もない砂地を窓辺から見つめていると、晒した肌にチリチリとしたかゆみを伴った痛みがあった。
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