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取り乱して
その時は気にしなかったが、その痛みはその日のうちに両腕へと広がっていった。
よく見ると、肌に火脹れのようなものができていてその部分がただれて盛り上がり、茶色に変色している。
(陽が強いのかしら、こんなことは初めて)
セナが狂ったように心配するだろうと思うと、なかなか言い出せなかった。
そしてそれは、少しずつ全身へと広がっていった。
ある日、いつも過ごしていた窓際になかなか近寄らないのを不審に思った、世話係のツナリにその両腕を見られ、それが伝わってセナに酷く怒られた。
『どうして言わなかったんだ、オリエ!』
「ごめんなさい。大したことじゃないと思って」
『実際、大したことになってるだろ! 手遅れになったらどうするんだっ‼︎』
セナに怒られるということは、自分の命に直結する。
そう思わせられるような、激怒だった。
「ごめんね」
両腕に広がった痣をさするようにして、俯く。
『日の光だなんて、思いも寄らなかった。僕は馬鹿か! 感染症にはあれだけ気をつけていたのに、くそっ、くそっ‼︎』
バシンバシンと、何かを叩きつける音がする。
少しだけ無言の間があったかと思うと、セナは震えた声で言った。
『取り乱してすまなかった。オリエのせいじゃない、僕のせいだ』
「違うの、私のせいよ。セナは悪くない。これからは、気をつける」
『……窓に、布を垂らそう』
虚しさの漂う会話を終え、オリエは見つからないようにと細く息を吐いた。
✳︎✳︎✳︎
(僕のせいだ、何もかも僕のせいだ! オリエが窓際でライアを待っているのを知っていたのにっ)
白く美しい肌だった。
それが、まだらに変色して、痛々しいまでの模様が浮かび上がっていた。
ぼろぼろになった肌の様子が、頭にこびりついて離れない。
セナは、足早に直ぐにも研究室へと入り、椅子にどかっと座ると、顕微鏡の中を覗き見た。
そこには、ライアの手紙についていた砂が、サンプルとして置かれている。
(この分析が終われば、間に合うかもしれないっ)
『砂を食べるの? よっぽどお腹が空いている時にしてね』
オリエがおどけて言った言葉が蘇る。
(今、身体に免疫ができれば、あの火脹れのような痣もあるいは……フライングだが、投与してみようか)
考えながらも、顕微鏡にまた眼を戻す。
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