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衝撃
「鈴樹が枯れて、ランタンが滅んだんだってな」
人の行き来でごった返す街中で、そんな噂が耳に入ってきて、ライアは思わず身を硬くして立ち止まった。
大陸の南深く、このように人口の多い街は初めてだと、最初は戸惑いを覚えるほどだった。
さすがにここまで奥地に来ると、ほとんどが大陸人でダウナ人は珍しく、ライアは行く先行く先で、もてはやされて珍重された。
この街の人々は、異国の話を聞きたがる、噂好きな性質らしい。
それは小雨降る肌寒い午後、街の飲み屋の横を通った時だった。
「おい、今、何て言った?」
耳を疑った。
数人の男をねめつけるようにして見渡し、言葉を発した男を見つけようと眼を見開く。
そのライアの様子を見て、昼間ではあったが酒を酌み交わしていた男たちはおののいた。
この長旅で、ライアは精悍な顔と鋭い目つきを手に入れていた。
無精髭はその厳しさを含む表情を和らげはしなかったし、何度か物盗りに襲われた経験から、腰に短刀を刺すようになっていた。
それがさらに、近寄りがたい空気を放って、ライアを孤独にした。
ここ数年は、ルキアに採取した物を何度か送っている。
それは数百種類に及んでいて、ライアは少しだけ確信のようなものを持っていた。
(これだけ多くの種類があるなら、この中に一つくらいはあるだろう。セナが見つけてくれているはずだ)
ルキアがどうだなどの噂は決して届かない。
だから、サンプルを送り続けるしかない。
自分にそう言い聞かせながら、旅を続けていた。
「……いやあ、俺もそこいらで聞いただけだから」
「何て言ったのかを訊いているんだ」
ライアの抑えられた迫力に、男たちは顔を見合わせる。
「ランタン人が、全滅したって……」
「嘘だ、そんなこと、あり得ないだろっ‼︎」
「……悪いが、俺も聞いただけだから」
バツが悪そうにしていた男たちは、そろそろと立ち上がり、勘定を済まして去っていった。
ライアはそこから動くことができず、次に何をしたらいいのかさえ、頭に浮かばなかった。
足を一歩、動かすことすら。
ライアは、その場に立ち尽くした。
居酒屋の主に追い出されるまでの、長い間。
男が言った言葉は、まるで現実味を連れてこない。
信じるか、信じないかではなく、自分には関係のない夢物語のようにも思える。
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