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記憶に苛まれて
確かめなければ、と思う。
そう思えたのは、世話になっている宿屋について、借りている部屋のベッドに入る頃だった。
ふらふらと宿屋に戻り、ふらふらとベッドに入って、天井をただただ見つめ続けた。
長い時間、居酒屋でぼけっと突っ立っていたのと同じように。
そして、天井に何かを思い描く。
いやそれは『何か』ではない。ライアが今まで大切に仕舞っておいた記憶という宝だった。
何かにつけて、その記憶は蘇ってきては、甘く甘く、耳元へと囁いていく。
『ライア……ライア、これあげる』
差し出してくる手のひらには、茶褐色の一粒の実。
『セナには内緒ね』
いたずらな顔をしてから、手渡してくる。
ライアはそれを、恭しく、そっともらい受ける。
『……私の命、よ』
その瞬間。
ぞっと、背中に冷たいものが走る。
そして、いつもそこでうたた寝から、飛び起きる。
天井は相変わらず、染みのついた木目。
ただ、いつもと違うのは、それがぼんやりと歪んでいるだけだ。
両手で顔を覆ってから、耳の中にまでつたっていた涙を手のひらで大雑把に拭くと、セナはもう一度思った。
確かめなければ、と。
✳︎✳︎✳︎
ルキアに向かうべきなのか、それともランタンへと向かうべきなのか、迷いに迷った挙句、それでも決めることが出来なかった。
ランタンに何かがあったとしても、オリエはルキアの隔離施設に入っていて、そこで日常を平穏無事に送っているはずだと自分に言い聞かせる。
(オリエは無事なはずだ。セナがついているんだからな)
半年ほどかかるであろう、今までに来た道をひたすらに戻る。
ルキアに行けば、二人に会えるし、事情も分かるだろう。
余計な行動は避け、ロキロキを上手く使って、大陸の中央部にまで戻った。
途中、猟師のハトゥとその娘のシマの家に寄ろうと、ライアはロキロキで草原を駆けた。
「ライア、ライアっ‼︎ 」
シマが飛びついてくるのを腕で抱きとめ、まだ狩りの準備をしていて在宅だったハトゥに挨拶する。
「久しぶりだなあ、元気だったか?」
ハトゥが肩を組んでくる。
「元気だよ」
言葉少ないのを気に留めてか、ハトゥが家に泊まるようにと促した。
ライアは懐かしさも手伝って、一晩世話になることを決めた。
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