足りていないものは、命か

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足りていないものは、命か

だが。 オリエは許しを乞うような情けない顔で追い掛けてきた、二人の幼馴染の顔をまじまじと見た。 「ライア」 ライアは真っ直ぐで男らしく誠実な性格。美人と評判だった母親譲りの顔と瞳に、その気質は顕著に表れている。体格はよく体力も運動力もあるが、繊細な面もあるので、それを楽器演奏に生かしている。 「セナ」 もう一方のセナは見かけは優男だが、ともするとライアより男気のある潔さを持っている。その頭脳明晰さは父親譲りだと言う。研究や論文に没頭して寝食を忘れてしまうこともあり、オリエはよくセナの健康面を心配をしていた。 が、どちらの両親も彼らを産み落として直ぐ、二十歳になる年で死んでいるので、実際に親と似ている遺伝の部分があったとしても、それが本当に当たっているのかどうかは確認のしようがない。 そう、ダウナ人は、二十年という生を全うできないのだ。その原因はわかっていないが、短命は民族的な特徴なのではないかと言われている。 そして、この二人の男。ライアとセナも例外ではない。 「でもな、オリエ。俺たち、今年で十八になる。現実を見なきゃいけないだろう?」 ライアが、これ以上オリエを怒らせないようにと、慎重に話を進める。 「ライア、オリエにとってこの提案はいきなりすぎたんだ。この話題はもうやめよう」 そうセナが割って入って、思い立ったら前進あるのみのライアを宥めるように言った。 「せっかく久しぶりにこの丘に三人揃ったんだからさ。こんな風につまらない時間を過ごすのはもったいないよね。オリエだって、楽しく過ごす方が良いだろう?」 けれど、楽しく過ごしたいと言ったセナの表情も、どこか曇ってしまっている。この話し合いについては、セナの中でもまだ宙に浮いたままだということを、返って浮き彫りにしてしまっていた。 「そういうことじゃないの。そんなことが言いたいんじゃないっ」 いまだ『運命』についての答えは出ていない。オリエは握っていた両の手に力を込めた。 「私が言いたいのは、本当にこのままで良いのかってことなの。このまま死を待つだけなんて……なんとかしなきゃいけない、なにか最善の方法を見つけようって、」 「けど、どうしようもねえだろっ」 ライアが噛みついた。オリエの言葉を遮るようにして、荒ぶった声を投げつける。 「寿命なんだよ! 俺たちはあと二年で死ぬ運命なんだ! それはどうにもできないことだし、どうやったってそれを変えることなんてできやしないんだぞ! だからこそ、今こうやっておまえに……」 「そんな遺言みたいな願い、聞けるわけないでしょっ!」 抑えていた涙が、どっと溢れて出た。オリエは右手の甲を、目頭にぐいぐいと押しつけた。 「選べないの、選ぶことなんてできないっ! そんなことできるわけがない! 選ぶ必要なんてないぃ!」 うわあっと大声をあげて泣き始めたオリエを前に、ライアとセナはバツの悪そうな顔をして、その場に突っ立った。気の強いオリエがここまで大泣きするなど、今までにもそうそうなかったからだ。 居たたまれない思いを胸に、二人は視線を合わせた。 だが、これだけは言わなければと、とうの昔から心に決めていた二人の、固い意志もある。それを唐突に遺言し、怒らせてしまったオリエをこうして追いかけてきたわけだが、この提案がオリエにとって無情な仕打ちということはわかっている。 ただ、それは今まで幼馴染三人で助け合って生きてきた、その証なのだとも言えた。
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