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帰郷
✳︎✳︎
「懐かしいな」
人の気配のない廃墟。無残にも枯れて、真っ二つに折れた大木。
信じられなかった。真実をこの目で見ても。
荒れ果てたランタンの村。その村の変わりように震えがきた。地響きに襲われるような感覚にも陥った。地面が割れ、一瞬でランタンが地に飲み込まれるような錯覚にも。
そして、鈴樹。めくれ上がった木の皮。ところどころは腐って落ち、小さなウジがたかっている。葉の名残もなく、ましてや実のひと粒もなく。
この鈴樹の無残な変わりよう。
ライアは恐れ慄いた。
記憶にあるそれは、確かに生命そのものと言ってもいい、そんな神のごとき存在だったのに。
お前たちの命などに構っている場合ではなかった。そう怒り叫んでいるような、見事な立ち枯れ。その死。
ライアは急いでその場を離れ、そして幼馴染三人で駆けまわっていた、あの丘へと向かった。気持ちの良い風が通る、あの丘。
ひたすら坂道を登っていった。
「ここら辺は変わらないんだな」
ライアは緑陰の揺れる丘に立った。見晴らしの良い場所。
そして、そこからいつも眺めていたランタンを見渡した。そこにはまだオリエの家もあり、もちろんダウナの村もある。
故郷ダウナの村も、人々が去った後だった。
酷く打ちのめされた。
自分が大陸をふらふらとしている間に。
歴史が塗り替えられるような。この眼で見ても信じられないような。そんな世界がここにあって。
夕暮れの空の色は、あの頃と変わらず、ライアの心へと染み込んでくる。
雲が間延びした様子で、その形を変化させながら広がっていく。
変わらないのは、この自然の風景だけ。
「本当に、懐かしいな」
緩やかに続く緑の絨毯。三人が滑って遊ぶのには恰好の場所だ。木の板やぶ厚い紙を何重にも敷いて、何度もここから滑り降りて遊んだ。
繰り返し滑っているうちに競争になり、誰が一番に滑り降りるかを争って、尻の下に敷くものをいろいろと改良するようになった。
「ライア! セナ! 見て! こんな良いもの見つけたわ!」
「お、おい。そんなもの持ってきていいのか?」
「怒られても知らないよ」
「大丈夫よっ。これで私の勝ちは決まったものね!」
オリエは家から大きな大きな鍋を持ち出してきた。
「よしいくぞ。よーいどんっ」
「ちょっと待って、動かないっ。それっそれっ」
伸ばした足で大地を蹴る。けれど、不安定な大鍋は容易にオリエを振り落とした。
「キャッ!」
転がった拍子に大鍋を壊し、三人で謝りに行ったことを覚えている。
オリエの父、サンダンにこっぴどく叱られて、やはり三人で、泣きながらこの丘に戻ってきた。
ふっと笑みがこぼれたかと思うと、不意に涙が溢れた。
「オリエ、オリエ、」
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