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奇跡
「死んでいない、オリエは死んでいない」
その場に崩れ落ちるようにして座り込み、ライアは声を上げて慟哭した。青草の香りに包まれる。
「ルキアで暮らしている。セナと一緒に、幸せに生きているはずだ」
どんどんと湧き上がる涙は、止めることはできない。
涙を拭くのも忘れて、ライアは泣き続けた。
✳︎✳︎✳︎
「誰、」
薄暗闇の中、手放していた意識。
「誰?」
声がして、覚醒する。
じゃりじゃりと砂を踏む音が近づいてきて、しかしそれは途中で止まってしまった。
ライアは重い身体を起こし、涙で濁って見にくい眼を凝らして、その方向を見た。
薄っすらと姿が見える。
「誰だ、」
ライアが少しだけ強い威嚇を含めた声で言うと、途端に足音が早足のものへと変わる。
「ライアっ‼︎」
その声が、息遣いが、足音が、覚えのあるものへと変化していく。
「お、オリエ、」
ライアはよろよろと立ち上がり、薄暗がりの中、足音と共にその姿を現してくるのをスローモーションのように見ていた。
「オリエっ‼︎」
倒れ込むようにして、二人は抱き合った。
その拍子にオリエの髪に顔を寄せると、そこには懐かしい匂い。ライアは眩暈を覚えた。
「……本物、本物なのか?」
腕に力を入れると、ライア痛いわ、と囁き声。
愛しさがこみ上げてきて、腕をずらしてもう一度、抱き締めた。
「帰ってきてくれたのね、ライア」
身体を離すと、顔を包み込むようにして、両手で頬を撫でる。
何度も思い浮かべたオリエの顔。
「オリエ、夢じゃない」
「うん」
「生きている、」
涙が溢れる。
頬を包むライアの手にも涙で濡れる感触がある。
「生きてるよ、生きてる。私、生きているの」
そして二人は、もう一度、震えながら抱き合った。
✳︎✳︎✳︎
「オリエ、今何て、言った?」
幼い頃、三人で遊び場を作って走り回った森の入り口の、待ち合わせの目印にしていた大木の根元で、ライアとオリエは二人身を寄せていた。
夜露が肌をしっとりと包み込み、少しだけ肌寒い。
ライアはオリエの隣で、まさかこんなにも穏やかな気持ちを持てるとは思いもしなかった。そんな平穏さに少しだけ戸惑った。
セナの妻であるオリエに会う時は、躊躇が少なくともあるはずだと、思っていたからだった。
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